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パリのカフェのテラスから〜 フランスって、ホントはこんなところです

RIKAママ|フランス

フランス国民を一気にワクチン接種に向かわせたマクロン大統領のスピーチ

マクロン大統領がグランパレからの中継でスピーチを行なっている模様  背景にはエッフェル塔     T F1画像

マクロン大統領が全国民に向けて、スピーチをするのは、今年の3月末に第3波が到来し、フランス国内での感染状況がいよいよヤバくなってきて、学校閉鎖が伝えられた時以来の久しぶりのものでした。政府からの何かしらの取り決めが発表される時でも、余程のことがない限り、マクロン大統領は登場しないので、「マクロン大統領がこの日にスピーチをする」という予定が知らされれば、自ずと、「今度は何だろう?」と多少なりとも身構えてしまいます。

夜8時に全国放送で流されたマクロン大統領のスピーチは、いつものエリゼ宮からの中継ではなく、現在、2024年パリ・オリンピックのために準備中であるエッフェル塔が背景に見えるガラス張りのグランパレからの中継でした。こんな時にも、この画像が全世界にも流されることを意識してフランスのイメージアップに余念がないところは、フランスの威信を感じます。

マクロン大統領のスピーチは、現在、フランスが多くの医療従事者や国民の努力のおかげで感染をある程度抑えることに成功し、日常生活を取り戻すことができていることに感謝し、2021年の経済成長率も6%が見込まれており、2020年3月のパンデミック開始以来、他のヨーロッパ諸国と比べても、学校閉鎖は12週間に抑えられており、これまでフランスが保護と自由のバランスを追求し続けてきたことは正しい選択であったと語りました。

彼のスピーチは、必ず国民を褒め称え、フランスを自画自賛する前置きが特徴で、今回も多分に漏れず、こんな感じで話が始まったのには、思わず、苦笑してしまいました。

医療従事者のワクチン接種義務化

ところが、彼の話は、これだけで終わるはずはありませんでした。現在のフランスは、感染者の60%以上がデルタ変異種によるものに置き換わってきており、せっかく減少を続けてきた感染者数もグングン増加傾向に転じています。マクロン大統領は、このデルタ変異種による感染拡大をヨーロッパ(特にスペインやポルトガル、イギリス)はもちろんのこと、全世界的なものであるとし、東京オリンピックでさえも無観客で行われることになったことなどを例に挙げ、感染力がイギリス変異種の3倍とも言われているデルタ変異種に対応するために、まず、これまで問題視されていた「医療従事者へのワクチン接種の義務化」を発表しました。

これは、病院はもちろんのこと、高齢者施設、介護施設、在宅介護、救急隊員などの全ての医療機関に携わる全職員・ボランティアに対して行われる措置で、これらの人々に対しては、9月15日までに2回のワクチン接種を行うことが義務付けられるものです。9月15日以降、ワクチン接種が終了していない人には、給与は支払われず、仕事を続けることは、不可能となります。なかなかどうして厳しい措置です。

これまでの世論調査でも国民の72%は医療従事者のワクチン接種義務化に賛成しており、多くの世論を味方につけている内容ではありましたが、即刻、国立病院組合は、「ワクチン接種はあくまで任意であるべきという姿勢は崩さない」との声明を発表しています。

段階的な国民へのワクチン接種への締め付け

そして、医療従事者ではない一般の国民に対しても、「1日も早く、ワクチン接種を受けてほしい」と述べ、7月21日以降は、これまでは1,000人以上のイベントにのみ求められていたヘルスパス(Pass Sanitaire)(ワクチン2回接種済み証明書か、48時間以内のPCR検査の陰性証明書、あるいは、6ヶ月以内にコロナウィルスに感染したという証明書)が50人以上のイベントには全て、そして、あらゆる文化施設、娯楽施設入場の際には、12歳以上の全ての国民に対して提示が求められることになりました。

さらに8月からは、レストラン・カフェ・バー、電車・バス(長距離)、飛行機、コマーシャルセンターへのアクセスにも、このヘルスパスの提示が必要になります。今回ばかりは、レストラン・カフェなどの飲食店についても、テラス席、店内席に関わらず、同じ条件ということで、結局は、飲食店の従業員に対しても、このヘルスパスは必須になるわけで、これらの人々に関しても必然的にワクチン接種が義務付けられるのと同じことになります。

ロックダウンが解除され、取り締まりの警察官が街から姿を消していましたが、また、このヘルスパスのコントロールのために取り締まりの警察官が街に戻ってきます。

これには、まだワクチン接種が完了していない、すでにバカンスに出ている人も、これからバカンスに出る予定の人も大慌て。レストランや文化施設、娯楽施設なども、入場時に全てのお客さんのヘルスパスをチェックしなければならないわけで、その対応に追われています。ワクチン接種が済まないままにバカンスに出ている人もバカンス先でもワクチン接種をするようにと呼びかけています。それだけこのデルタ変異種の勢いは強力で早く、猶予がないことなのです。

あくまでもワクチン接種をしたくない人は、普通の日常生活を送るためには、48時間おきにPCR検査をすることが必要になりますが、パンデミック開始以来、フランスではずっと無料だったPCR検査も、10月からは、医師からの処方箋がない限り、有料(50ユーロ)になり、事実上、ワクチン接種(無料)をせざるを得ない状況になります。ちょっと外に食事に行きたくても、ちょっと買い物に行きたくても、ワクチン接種を受けない限り、いちいち50ユーロを支払ってPCR検査を受けなければならないのですから、これは、ほとんど義務化のようなものなのです。

マクロン大統領のスピーチ直後の国民の反応

このマクロン大統領のスピーチ直後、ワクチン接種の予約のサイトは、パンク寸前になり、一晩で90万件の予約が入ったそうです。これだけの人がワクチン接種を急ぎ出しただけでもマクロン大統領のスピーチの効果は充分にあったわけです。

しかし、同時にこのスピーチ直後に、フランスのツイッターには、#ジレ・ジョンヌ(黄色いベスト)がトレンド入り、この半強制的なマクロン大統領の発表に、フランス人は黙って従う人ばかりではありません。何かといえば、すぐにデモが起こるフランスも、何よりもバカンス最優先の国民、バカンスシーズン中にデモはありませんが、発表当日にこのトレンド入りした「ジレ・ジョンヌ(黄色いベスト)」には、少なからず、「やっぱり・・バカンスが明けて、9月に入れば酷い騒ぎになるだろうな・・」と思っていたのです。

このワクチン接種拡大の呼びかけ、ヘルスパス必須の発表は絶妙のタイミングだった

マクロン大統領のこの発表は、「ワクチン接種義務化」という言葉は使わないまでも、外堀から追い詰めていく、半ば事実上の「ワクチン接種の義務化」とほぼ変わらない内容であっただけに、国民が反発して、政府が発表を取り下げるということもあり得るのではないかと私は内心、少し思っていました。

しかし、蓋を開けてみると、ここのところ、停滞気味だったワクチン接種がこのマクロン大統領のスピーチの翌日には、1日で792,339人接種という記録的な数字を叩き出し、彼の発表から一夜明けた時点の世論調査によると、国民の79%が「ワクチン接種に行く」と回答しており、「ワクチン接種はしない」と答えた人は16%、「まだわからない」が5%と一気にワクチン接種を受ける方向に傾いたのです。

これは、世界的にもデルタ変異種が拡大していて危険な状況にあるという現実もありますが、その第一の理由は、このタイミングがバカンスシーズンが始まったばかりであったことだと私は思っています。何よりもバカンスを大切にし、一年中の一大イベントである夏のバカンス。フランス人は、バカンスのために生きているといっても過言ではないほど、バカンスは、フランス人の人生の優先順位の最上位に君臨しています。

そのバカンスを心おきなく、思いきり楽しむためには、ヘルスパス(一応、48時間以内のPCR検査や6ヶ月以内のコロナウィルス感染の証明書も選択肢には入っていますが)がなければ、つまり、ワクチン接種をしなければならなくなったわけです。いわば、バカンスを人質?に取られた形で、今までワクチン接種を躊躇していた人々は、一気にワクチン接種を急ぐ方向に動き出したのです。

もちろん、このかなり強行な追い詰めとも言える政策に踏み切るには、すでにある程度のワクチン接種が進んでいる状況で、しかも、現段階で、すぐにワクチン接種希望者にワクチン接種を行うことができるワクチンの確保ができていることは、必須条件だったと思います。しかし、このかなり強気の政策に国民が一気に動き出したのは、やはりフランス人の何よりもバカンスを重んじる文化と、デモができない(皆がバカンスに出て全国に散らばっているためにデモが成立しにくい)時期であったに他なりません。

フランスでは、コロナウィルス対策に関しては特に、四六時中、カステックス首相やオリヴィエ・ヴェラン保健相などがテレビのニュース番組に頻繁に生出演して、インタビューに答えて、国民に向けて説明を怠らず、メッセージを送り続けていますが、この発表の1〜2週間前頃からは、妙に自信ありげに、「フランスは、ロックダウンせずにこのパンデミックを乗り越えることができます!」と公言して憚らなかったことを今になって振り返れば、「これだったのか・・」と思います。

フランス人は、どちらかといえば、保守的な国民で、新しいことを受け入れることには、あまり鷹揚ではありません。ましてや、開発されて間もないワクチンが受け入れられることは、難しいことであったと思います。しかし、被害も甚大(これまでに11万人以上が死亡)で、いつ感染するかもしれない状況に、そして周囲の国でのワクチン接種の成果を目の当たりにするにつれて、ある程度の割合の人は、ワクチンを受け入れてきました。私自身も当初は、様子を見ようと思っていましたが、次第にもうワクチン接種のリスクよりも、感染するリスクの方が高いと判断し、3月にワクチン接種の申し込みをし、6月の時点で2回のワクチン接種を完了しています。

しかし、フランスでは、自分の身に直接、影響を及ぼしにくい(感染しても重症化しにくい)若い世代の人などは、やはり、考えてはいても、躊躇して先延ばしにしていた人が多かったのです。これらの人々を今回のマクロン大統領の政策で、一気にワクチン接種に導いたのです。これまでの3度にもわたる度重なるロックダウンには誰だって、もう嫌でうんざりしているに違いありません。バカンスを始めとして、外食をしたり、映画館に行ったり、コンサートに行ったりできる自由を手に入れるために、多くのフランス人は、ワクチン接種をする決断をしたのです。

マクロン大統領の発表があった翌日に、ワクチン接種に駆け込んだ人々は、「マクロン大統領の言っていることは正しい」「自分自身も自分の周囲の人も守らなければならない」などと、もっともらしいことを答えていましたが、誰だって、迷いながら決断したことに対しては、後付けでもっともらしい理由をつけたりするものです。しかし、たとえ、それがバカンスのために踏み切ったことだったとしても、結果的にワクチン接種が拡大していけば、それで良いのです。

ヘルスパス=ワクチンパスポート

もはや、「ヘルスパス」は、フランスでは、一晩にして、「ワクチンパスポート」に置き換わったような状況です。人々が外に出て、人流ができることを防ぐのがロックダウンならば、これがなければ、人の集まるところには、行けない「ヘルスパス」=「ワクチンパスポート」は、感染者、あるいは、感染の危険のある人を閉め出す「逆ロックダウン」とも言えるかもしれません。

経済を止めずに感染を防ぐには、ワクチン接種を拡大していくことしか手段はないのですが、まずは「ワクチンパスポート」という言葉を使わず、「ヘルスパス」として、少しワクチンをしない方法も含めた言葉を使い、このヘルスパスの効力を最大限に利用し、最終的には、そのヘルスパスの範囲を狭めていく・・これは、なかなかの戦略です。なんでもハイハイと簡単には従わない、一筋縄ではいかないフランス人を納得させたフランス政府の政策を私は、なかなかなものだと思っています。

それでも、秋になれば、それでもワクチンをしたくないという人は、デモをやると思っていたら、早々に先日、全国各地でデモは起こりました。これからもデモは続くかもしれません。しかし、もしこれが、バカンス中の期間の発表でなかったら、この程度のデモでは済まなかったと思っています。しかし、それまでには、バカンスのためにワクチン接種を済ませる人の分だけでも相当のワクチン接種が拡大されます。そして、現在のフランスは、バカンスのためにワクチン接種を少しでも早く済ませたい人が大多数なのです。

後日、ワクチン接種の期限に関しては、ヘルスパスが求められる現場で勤務する職員やワクチン接種が最も遅い段階で開始された12歳から17歳のティーンエイジャーに対しては、8月30日まで猶予期間が設けられることなど若干の修正が加わりましたが、大勢に影響はありません。多くの人々がバカンスが終わって、学校や職場に戻る秋には、かなりのワクチン接種が進んでいることになります。

政権の政策の取り方、タイミング、国民への説得の仕方によって、こんなに世の中が一気に変わるものなのだと私は、びっくりしています。

 

Profile

著者プロフィール
RIKAママ

フランスって、どうしようもない・・と、日々感じながら、どこかに魅力も感じつつ生活している日本人女性。日本で約10年、フランスで17年勤務の後、現在フリー。フランス人とのハーフの娘(1人)を持つママ。東京都出身。

ブログ:「海外で暮らしてみれば・・」

Twitter:@OoieR



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