コラム

民主党にとって最悪のシナリオになりつつある予備選

2020年02月27日(木)20時00分

ロシアが支援したいのはサンダースなのか、トランプなのか David Becker-REUTERS

<強硬左派のサンダースが優勢のまま予備選が進めば、民主党員が最も恐れる党内の亀裂は修復不可能に>

大統領選における民主党の指名候補を決める予備選は、(2月26日現在)アイオワ州、ニューハンプシャー州、ネバダ州の3州での投票が終わっている。この時点では、バーニー・サンダース上院議員が得票数と代議員においてトップに位置している。とは言え、サンダースが楽勝という状況ではまったくない。

アイオワではサンダースのほうが得票数は多かったが、アイオワ独自のシステムによるカウントで元サウスベンド市長のブティジェッジが僅かに勝利したことになっている(制度やシステムに問題があって現在も論争が続いている)。2016年にヒラリー・クリントンに22%以上の差をつけて圧勝したニューハンプシャーでも、サンダースは2位のブティジェッジに1.3%差に迫られ、代議員数を分けることになった。2016年には60.14%を獲得したのに、2020年は25.6%しか得ることができなかったことで、4年前ほどの勢いがないことを露呈したことになる。

アイオワとニューハンプシャーは最初に予備選があるために注目されているが、全米を代表するような地域性ではない。どちらも住民の9割が白人であり、国際的に知られる大都市もない。また、アイオワとネバダの予備選は会場での討論などの時間の余裕がある者しか投票できない「コーカス(党員集会)」なので、熱心な活動家がいる候補が優位になる。だから、これら3州がアメリカ全体の世論を反映しているわけではない。

2月29日に行われる4番目の南部のサウスカロライナが重視されるのは、これまでの3州とは人口動態も地域性も大きく異なるからだ。この州の白人の約6割が共和党員あるいは保守で、黒人の約8割が民主党員あるいはリベラルである。州全体では共和党が強いのだが、民主党は圧倒的多数が黒人でありパワーを持っている。この州の民主党予備選の結果は、どの候補が全米の黒人から支持されているのかを示唆するため、非常に注目される。また、この州の結果が、予備選最大の山場と言われる3月3日のスーパー・チューズデーに大きな影響を与えると見られている。

サウスカロライナの予備選では、2008年にはバラク・オバマが55.4%、2016年にはヒラリー・クリントンが73.44%の得票率で圧勝した。だが、今年の予備選では、黒人から圧倒的に支持されている候補ははっきりしていない。

初期の世論調査では、オバマ時代に副大統領だったジョー・バイデンが黒人有権者から圧倒的な支持を得ていた。だが、現在までにかなり支持を減らしている。最近の世論調査では、若い黒人の間でサンダース支持が増えているようだ。

プロフィール

渡辺由佳里

Yukari Watanabe <Twitter Address https://twitter.com/YukariWatanabe
アメリカ・ボストン在住のエッセイスト、翻訳家。兵庫県生まれ。外資系企業勤務などを経て95年にアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。近著に『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)などがある。翻訳には、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社、日経ビジネス人文庫)、マリア・V スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)がある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

AIブーム、崩壊ならどの企業にも影響=米アルファベ

ワールド

ゼレンスキー氏、19日にトルコ訪問 和平交渉復活を

ワールド

中国の渡航自粛、観光庁長官「影響を注視」 10月は

ワールド

北朝鮮、米韓首脳会談の成果文書に反発 対抗措置示唆
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 3
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 8
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 9
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 10
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story