コラム

アメリカで黒人の子供たちがたたき込まれる警官への接し方

2017年11月15日(水)11時15分

だが、2人の乗る車を警官が止める。後部ライトが消えているという理由だ。そして、武器も持たず、何の抵抗もしていないカリルは、スターの目の前で銃殺されてしまう。
スターが思い出したのは、両親から教え込まれたことだ。

"When I was 12, my parents had two talks with me. One was the usual birds and the bees. The other talk was about what to do if a cop stopped me."

"Mama fussed and told Daddy I was too young for that. He argued that I wasn't too young to get arrested or shot. Starr-Starr, you do whatever they tell you to do, he said. Keep your hands visible. Don't make any sudden moves. Only speak when they speak to you."

(私が12歳になったとき、両親は私に2つの「重要な話」をした。ひとつは、よくある鳥とミツバチについて(注:性の話)。もうひとつは、警官に止められたときにどうするのか、という話だ)

(お母さんは嫌がって、まだその話をするには子どもすぎるとお父さんに反対した。けれども、お父さんは、子どもすぎるから逮捕されたり銃で撃たれないというものではないと反論した。スターよスター。警官が何を言っても、そのとおりにしなければならないよ。そうお父さんは言った。両手は、常に警官から見えるところに置いておかなければならない。いきなり動いてはいけない。あちらが質問したときに答える以外には話しかけてはいけない。)

けれどもカリルはそれを守らなかった。「僕がいったい何をしたんだ?」と反論してしまった。そして、怯えているスターを心配して「大丈夫かい?」と尋ねた。警官がカリルを撃ったのはそのときだった。

ショックを受け、怯えたスターは、最初のうちは自分や家族の平和を守るためにも沈黙を守る。けれども、社会から何の価値もないように扱われるカリルの命と人生に憤りを覚え、声を上げることにする。

この小説のタイトルである『The Hate U Give』は、1996年にヒップホップ抗争と思われる銃撃で亡くなった2パック(Tupac)の作ったフレーズ「Thug Life」から来ている。

Thugとは、インドの秘密犯罪結社を由来としたもので、その後「強盗、悪者、ギャング」を意味するようになった。現代の音楽では「Thug Life」というフレーズでヒップホップ的な生き様を表現する。これについて、2パックはかつて、「The Hate U Give Little Infants, Fuck Everybody(おまえたちが幼い子どもたちに与える憎しみ。おまえたちみんな、くそったれだ」の頭文字を取った略語だと説明した。

プロフィール

渡辺由佳里

Yukari Watanabe <Twitter Address https://twitter.com/YukariWatanabe
アメリカ・ボストン在住のエッセイスト、翻訳家。兵庫県生まれ。外資系企業勤務などを経て95年にアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。近著に『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)などがある。翻訳には、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社、日経ビジネス人文庫)、マリア・V スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)がある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ米大統領「次はキューバ」、具体策には触れず

ワールド

ロシア、4月1日からガソリン輸出禁止措置 副首相が

ワールド

米トマホーク850発以上使用、イラン攻撃4週間 国

ワールド

アングル:米民主党、牙城カリフォルニア州の知事選で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 2
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊張緩和の兆しか
  • 3
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?...「単なるホラー作品とは違う」「あの大作も顔負け」
  • 4
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 5
    ウィリアム皇太子が軍服姿で部隊訪問...「前線任務」…
  • 6
    「俺たちはただの人間だ」――BTSが新アルバム『ARIRAN…
  • 7
    日本経済にとって、円高/円安はどちらが「お得」な…
  • 8
    アメリカのストーカー対策、日本との違いを考える
  • 9
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 10
    ニュースでよく聞く「東京外国為替市場」は、実際は…
  • 1
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ海峡封鎖と資源価格高騰が業績を押し上げ
  • 2
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 3
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店員も「なすすべなし」の暴走モード
  • 4
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」…
  • 5
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 6
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 7
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 8
    【クイズ】2年連続で「世界幸福度ランキング」で最下…
  • 9
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 10
    まずサイバー軍が防空網をたたく
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story