コラム

性転換するわが子を守り通した両親の戦いの記録

2016年01月13日(水)16時00分

 知的階級のリベラルな親なら、「Wyattが女の子になるのを応援しよう」とすんなり思うのだろうか? 保守的な親なら「男らしくしろ!」と怒鳴りつけて人形を取り上げ、子どもが泣いて拒否しても激しいスポーツを無理やりやらせるのだろうか?

 ジェンダーの問題は、「共和党vs民主党」「保守vsリベラル」といった政治的なアジェンダになりがちだ。

 また、最近元オリンピック選手のケイトリン(ブルース)・ジェンナーが「自分はトランスジェンダーだ」とカミングアウトしたことが話題になったが、こうしたカミングアウトは、トランスジェンダーを特異な存在として揶揄したい人々の好奇心を掻き立てるだけで、一般のトランスジェンダーへの理解を深めるものではない。

 Maines一家の戦いを記録した『Becoming Nicole: The Transformation of an American Family』は、政治的な主張をするための本でもなく、ケイトリン・ジェンナーのカミングアウトのような扇情的なものでもない。ごく普通の夫婦が、政治的な正しさや宗教観などとは関係なく、「親としての子どもへの愛」だけをコンパスに、迷いながら「わが子にとって最良の」道を選び通した胸を打つ実話だ。

 ピューリッツァー賞を受賞したこともあるワシントン・ポスト紙の記者が4年かけて書いただけあって、生物学的な解説や歴史的な考察もあり、大変に読み応えのあるノンフィクションだ。

プロフィール

渡辺由佳里

Yukari Watanabe <Twitter Address https://twitter.com/YukariWatanabe
アメリカ・ボストン在住のエッセイスト、翻訳家。兵庫県生まれ。外資系企業勤務などを経て95年にアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。近著に『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)などがある。翻訳には、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社、日経ビジネス人文庫)、マリア・V スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)がある。

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