コラム

イスラエルとイラン『12日間戦争』停戦後も高まるテロの脅威──次の標的は?

2025年07月22日(火)14時29分

イラン関連組織による過去のテロ事件

イラン関連組織やその支持者によるテロ事件は、過去にイスラエルや米国権益を標的として世界各地で発生しており、その手口や影響は多岐にわたる。これらの事件は、イランが支援するヒズボラなどの組織がグローバルなテロネットワークを通じて攻撃を実行する能力を有していることを示す。以下に、代表的な事件を詳細に記述する。

1992年3月17日、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスにあるイスラエル大使館が爆破され、29人が死亡し、242人が負傷した。この攻撃は、イランが支援するヒズボラによるものと広く疑われている。さらに、1994年7月18日には、ブエノスアイレスのユダヤ人コミュニティセンター(AMIA)が爆破され、85人が死亡、300人以上が負傷する大規模なテロ事件が発生した。


この事件もヒズボラの関与が指摘され、イラン政府との繋がりが国際社会で問題視された。これらの事件は、イスラエル権益を狙ったテロの深刻さを示す代表例である。

2012年7月18日、ブルガリアのブルガス空港近くで、イスラエル人観光客を乗せたバスが爆破され、6人が死亡、32人が負傷した。この攻撃はヒズボラによるものとされ、イランの支援を受けたテロとして国際的な非難を受けた。ブルガリア政府はヒズボラの軍事部門が関与した証拠を提示し、欧州連合(EU)はこれを受けてヒズボラの軍事部門をテロ組織に指定した。

同年2月、インドのニューデリー、タイのバンコク、ジョージアのトビリシにおいて、イスラエル大使館や外交官を標的としたテロ未遂事件が相次いで発覚した。ニューデリーでは、イスラエル大使館員の車両が爆破され、外交官の妻が負傷した。バンコクでは、爆発物を持ったイラン国籍の容疑者が逮捕され、トビリシでも同様の計画が未然に防がれた。

これらの事件は、イラン関連組織が国際的なテロネットワークを通じてイスラエル権益を攻撃する能力を有していることを示す。特に、アジアや欧州での同時多発的な計画は、テロのグローバルな広がりを明らかにした。

そして、2023年10月のイスラエル・ハマス紛争の勃発以降、中国の北京ではイスラエル大使館職員が暴行される事件が発生した。この事件は、反イスラエル感情の高まりを背景にした単独犯によるものとされている。

また、同年11月、ブラジルのサンパウロにおいて、ユダヤ人コミュニティを標的としたテロ計画が発覚し、2人の容疑者が逮捕された。この計画は、ヒズボラと関連のある過激派グループによるものであり、イランの支援を受けた可能性が指摘されている。

プロフィール

和田 大樹

株式会社Strategic Intelligence代表取締役社長CEO、清和大学講師(非常勤)。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論など。大学研究者として国際安全保障的な視点からの研究・教育に従事する傍ら、実務家として海外進出企業向けに政治リスクのコンサルティング業務に従事。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ボルソナロ氏長男、26年大統領選出馬を確認 決断「

ビジネス

米NEC委員長「利下げの余地十分」、次期FRB議長

ビジネス

日経平均は続伸で寄り付く、5万1000円回復 TO

ワールド

豪が16歳未満のSNS禁止法施行、世界初 首相「誇
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「財政危機」招くおそれ
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 8
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story