コラム

中国人が日本の仏教に心酔する理由

2023年12月18日(月)18時50分
周来友(しゅう・らいゆう)(経営者、ジャーナリスト)
東京 圓照寺

東京・北新宿にある真言宗豊山派のお寺、圓照寺 Courtesy of Enshoji

<中国では文革期に仏教がつぶされ、私は日本に来てから仏教の素晴らしさを知った。多くの在日中国人経営者も、読経や写経、座禅を経験している>

詳しくは11月14日号(もしくはウェブサイト)で読んでいただけたらと思うが、前回のコラムで、元従業員に裁判で負けて大金を失った話を書いた。

あまりに理不尽な結果で気がめいっていたため、気持ちを紛らわせようと自宅から程近い圓照寺(えんしょうじ)を訪れた。東京・北新宿にある真言宗豊山派のお寺で、小規模だが素晴らしい日本庭園がある。実は写真家の篠山紀信さんの実家で、これまでも度々訪れていた。

圓照寺 日本庭園

Courtesy of Enshoji

春には紅白2色の梅、中央に鎮座する枝垂(しだ)れ桜、春から初夏にかけては色とりどりの牡丹(ぼたん)、秋には見事な紅葉と、境内の庭園で季節ごとの植物を楽しめる。

圓照寺 日本庭園

Courtesy of Enshoji

その日はちょうどベテランの庭師が笹の根を掘っていて、私は思わず話しかけた。日本文化が好きで、自宅にも猫の額ほどの日本庭園を造って庭いじりを楽しんでいるんです、ここは本当に立派ですね......と。

荒井さんというその庭師によれば、圓照寺はかつて桜の御寺として名高く、庭園の桜は「江戸の三桜」の1つにも数えられていた。その後、戦災があり桜の木も焼失したが、20数年前から荒井さんが中心になって、枝垂れ桜の若木を探しに福島まで足を延ばし、石も群馬などから徐々に集め、時間をかけて庭を造っていったという。

圓照寺 日本庭園

Photo: Yusuke Morita

お寺の庭なので、仏様のいる本堂からどう見えるかを考える。木を植えるときも、石を置くときも、仏様に「これでいいか」と聞く。自分が造りたい庭ではなく、自然のままに造ること。我を入れると庭が死んでしまう。最も大切なのは自然と無我だ──。実は僧侶でもあるという荒井さんは、私にそんな庭造りの神髄を教えてくれた。

圓照寺 日本庭園

Photo: Yusuke Morita

しかし、今の世の中は「無我」とは程遠く、皆自分のことばかり考えている。争いが絶えず、ウクライナやパレスチナでは今も殺し合いが行われている。慈愛の精神を大切にする仏教がもっと広く信仰されていれば、もっと違う世の中になっていたのではないかと思ってしまう。

中国では文化大革命期に仏教がつぶされ、私自身、宗教に興味を持つことなく育った。仏教に引かれるようになったのは日本に来てからだ。どこに住んでも近所にお寺があり、それらは中国の寺院と違って素朴だが、きちんと守られ、手入れされている(圓照寺ほどの見事な庭園は珍しいが)。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米債市場の動き、FRBが利下げすべきとのシグナル=

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税コストで

ビジネス

米3月建設支出、0.5%減 ローン金利高騰や関税が

ワールド

ウォルツ米大統領補佐官が辞任へ=関係筋
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 7
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story