コラム

羽生結弦さんに日中関係は救えない

2022年10月17日(月)16時30分
周 来友(しゅう・らいゆう)
羽生結弦、チャンヒナ

YUTAKA/AFLO SPORTS

<先日、日中国交正常化50周年の記念行事に羽生さんが特別出演して話題になったが、有名人に頼る口先だけの「友好」には何の意味もない。中国政府も日本政府もこの50年、本当の正常化のための努力をしてこなかった>

去る9月29日、東京都内で日中国交正常化50周年の記念イベントが行われた。中国でも絶大な人気を誇るフィギュアスケーター、羽生結弦さんが特別出演し、中国語でスピーチもしてニュースになったので、記憶に残っている人もいるだろう。

イベントは昼の部、午後の部、夜の部の3部構成で、外務省や在日中国大使館などが後援に名を連ねていた。

私は普段、パスポートの更新手続き以外では中国大使館と無縁の生活を送っているが、知人にチケットをもらったので、新宿の東京オペラシティで開かれた記念式典(夜の部)に出席することにした。日中関係の行く末が心配だったからだ。

45周年では安倍さん、30周年では小泉さんと当時の首相が式典に出席したが(40周年の際には直前に尖閣諸島〔中国名・釣魚島〕国有化があり、式典は事実上中止となった)、今回、岸田首相は欠席。50周年は大きな節目のはずだが、羽生さんのスピーチぐらいしか話題にならなかったのは寂しい限りだ。

北京でも式典は開かれたが、こちらも要人の出席は少なく盛り上がりに欠けた。

そんななか、夜の部の式典会場が沸いたのは、羽生さんと中国の伝統楽器・二胡の奏者チャンヒナさん(写真左)が掛け合いをしたときだった。

羽生さんが中国語で「私は今年27歳です」と言うと、チャンヒナさんがこう返す。

「私は24歳です」

すると、羽生さんが言った。

「2人の年齢を足すと51歳です。明日が日中国交正常化51年の初日になります。これからの50年も手を携えて頑張っていきましょう」

この発言には私も「うまい!」と思った。だが、あえて言えば、中国政府はこういう口先だけの「友好」演出をやめるべきだ。

羽生さんや同じく中国で人気の元卓球選手、福原愛さんも、言葉は悪いが、中国政府の広告塔になってしまっている。

中国はこの50年、日本との間に本当の意味で正常な関係を構築しようとはしてこなかった。反日教育は国交を正常化した相手に礼を失する施策だし、尖閣諸島での嫌がらせや、東シナ海での一方的なガス田開発も目に余る。

苦言を呈したい相手は中国政府だけではない。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

韓国特別検察官、尹前大統領の拘束令状請求 職権乱用

ワールド

ダライ・ラマ、「一介の仏教僧」として使命に注力 9

ワールド

台湾鴻海、第2四半期売上高は過去最高 地政学的・為

ワールド

BRICS財務相、IMF改革訴え 途上国の発言力強
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗」...意図的? 現場写真が「賢い」と話題に
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    コンプレックスだった「鼻」の整形手術を受けた女性…
  • 7
    「シベリアのイエス」に懲役12年の刑...辺境地帯で集…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 10
    ギネスが大流行? エールとラガーの格差って? 知…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 6
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 7
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 10
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story