コラム

悪質な客も神様か?──クレーマーをのさばらせる「お客様は神様」と礼儀

2022年07月01日(金)14時18分
トニー・ラズロ
スマホ

LOVESHIBA/ISTOCK

<客との衝突をできるだけ避けようとする風習は良いが、カスハラ(カスタマーハラスメント)をそろそろ真剣に考える時期に来ている。そもそも「礼儀」を説いたのは日本人である>

近所の八百屋で列に並んでいると、前の人がレジ係に対して突然怒鳴り始めた。

「袋! さっき言った! 袋!」

「袋ですね。はい、分かりました。別料金3円になりますが、よろしいでしょうか」

「2つって言ったよ。なんと失礼な。なんでお客さんを無視するのよ?」

この人、袋を注文したかな。すぐ後ろにいた僕には聞こえなかった。礼儀正しさと感じの良さが取りえというレジ係は、一瞬どうしたらいいか分からない様子。でもすぐにいつもの笑顔を取り戻し、レジ袋を2枚カウンターにそっと置いた。

「これサービスです」

日本のサービス業では「お客様は神様」という意識が強いとされる。客との衝突をできるだけ避けようとするのは日本的で、良いことだと思う。でもまさにこの、客のあらゆる言動を受け入れようとする意識が悪質なクレーマーをのさばらせてきたのではないか。

僕が見たあの「袋の人」が再び来店し、クレームがさらにエスカレートすれば、八百屋の業務の妨げとなるだろう。最近はカスハラ(カスタマーハラスメント)なる言葉も生まれ、社会的な注目を集めているが、「袋の人」もその範疇(はんちゅう)に入る。

もちろんクレーマーは他の国にもいるけれど、僕の見る限り、客は神様ではなく、店員とほぼ同等の立場にある。

ベルリンに住んでいたとき、スーパーでトマトの箱の値札が見えづらいとレジ係に文句を言う客がいた。するとレジ係は、謝るでも反論するでもなく、「そうなのよ。新人のバイトが値札を付けたんだけど、どうかしてるよね」。

レジ係に同意されたその客は、クレームをエスカレートさせなかった。サービスとしては日本に劣るのだが、働く側のストレスは少ない。100点じゃないけれど、こんな方法もあるのだろう。

さて、日本に際立つこのカスハラ問題、自分はそんな言動はしないし、スーパーや飲食店で働いてもいないという人だって無関係じゃない。僕はいわゆるフリマアプリを使って、要らなくなった本やゲームを低額で人に譲っているが、そこでは僕も被害者だ。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

カナダ、インドとの貿易交渉再開へ 関係強化進める=

ビジネス

中国新築住宅価格、10月は1年ぶりの大幅下落

ビジネス

タタ・モーターズ商用車部門、下半期に1桁台後半の需

ワールド

トランプ政権、アラスカ州石油・ガス開発の制限撤廃 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 5
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 6
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 10
    「ゴミみたいな感触...」タイタニック博物館で「ある…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story