コラム

米韓を反面教師に、日本政治が目指すべき「ちょうど良いところ」

2021年02月04日(木)17時30分
李 娜兀(リ・ナオル)

KIYOSHI OTA-BLOOMBERG/GETTY IMAGES

<アメリカや韓国ほど政治的な二極化が進んでいない日本──自由に意見ができる空気は維持しつつ、市民の政治への関心は高めていくべき>

「何をしようとしているのか、さっぱり伝わってこないのよねー」。昨年末、東京で新型コロナウイルス感染者が急速に増えると、私が住む都内のベッドタウンでも運動仲間や近所付き合いの中から政府のコロナ対策への不満の声が聞こえ始めた。

私の経験では、日本ではこうした雑談に政治が登場することはそれほど多くない。そうした話題が出るときは、なにか相当に政治への関心が高まる出来事があったときだ。その後、菅義偉政権の支持率が下がっているという報道を見て、街で感じる空気と世論はやはりつながっているのだなと思った。

このように普段はそれほど強い関心があるわけではないが、身近なところにまで影響するようなことがあると、居酒屋やサウナ、カフェといった場所で、友人、知人に対してわりと自由に政治に対する意見を語るのが日本の有権者の特徴だと思う。

政治的な意見の二極化が激しいアメリカや韓国では特に最近、なかなかこうはいかないようだ。不用意に政治的意見を言えば、人間関係が簡単に壊れてしまうからだ。

「トランプ支持」か「反トランプ」か、で米国民は二分され、トランプ氏の支持者たちが米連邦議会議事堂を襲撃した事態は、テレビで見て私もショックを受けた。アメリカ人の友人からも、政治的立場の違いによって家族や親族間で会話ができなくなったという話をよく聞く。

大量に流されるデマ

実は韓国も、アメリカほどではないが近い状況にある。文在寅(ムン・ジェイン)大統領や与党を支持するかしないか、保守か進歩かで世論が大きく二分されているからだ。韓国は2月中旬に家族、親族で集まる旧正月を控えているが、政治的な意見の違いで両親や親戚と会話するのが難しいとこぼす友人も少なくない。

二極化する世界で、さらに悩ましいのが政治に関連した不正確な情報やデマが大量に生み出されることだ。アメリカでは、昨年11月の大統領選は大掛かりな不正選挙だったとか、民主党は悪魔を信じる集団だ、といったデマがトランプを支持する人たちの間で共有され、再生産された。特に全く根拠がなかった「ドミニオン社の投票機によって票がすり替えられた」とのデマに、多くの人が引っ掛かったのは衝撃だった。

実は韓国でも昨年4月の総選挙で落選し、「開票機器が不正に操作された」と訴えた保守派議員がいた。だが彼らは証拠を示せず、支持は広がらなかった。ちなみに、この元議員は米大統領選についてもドミニオンの機器による不正があったと懸命に訴えている。一方、インターネットで検索すると、日本にも「自民党が勝ち過ぎているのは選挙機器のせいだ」などの陰謀論はあるようだが、韓国の保守派元議員の主張と同様、支持は全く広がっていない。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は大幅反落、1000円超安で今年最大の下げ

ワールド

中国、ロシアに軍民両用製品供給の兆候=欧州委高官

ワールド

名門ケネディ家の多数がバイデン氏支持表明、無所属候

ワールド

IAEA、イラン核施設に被害ないと確認 引き続き状
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 3

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 4

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 5

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 6

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 7

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 8

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 9

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 10

    紅麴サプリ問題を「規制緩和」のせいにする大間違い.…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story