コラム

NFTは単なる投機なのか、世界を変えるツールなのか?

2021年10月28日(木)21時14分

サザビーズで取引されたWWWのソースコードのオークションサイト。5,434,500ドルで落札された

<NFTが革新的なコンセプトの中心になっているのは、クリエイティブ産業だけではない>

NFTとは何か?

NFT(Non-Fungible Tokens:非代替性トークン)は、2021年を牽引したトレンドのひとつである。そもそもトークンとは、代用貨幣、引換券、商品券などの意味を持ち、ブロックチェーンにおいては暗号資産全般を意味する。代替不可能なトークンとは、唯一無二な資産を意味する。1万円札を持っていたら、五千円札2枚や千円札10枚と交換できるが、NFTはそれぞれ固有の性質を持っているため等価交換はできない。

NFTは、ブロックチェーン上で無形および有形のさまざまなアイテムの所有権を表す固有のデジタルトークン、別名デジタル証明書である。アートビジネスやゲーム、音楽、ファッションなどのクリエイティブ産業に、NFTは新風を吹き込んでいる。ベルリンでは、数多くのスタートアップ企業がブロックチェーンをベースとする革新的なNFTプロジェクトに取り組んでおり、地元のアートギャラリーでもNFTの重要性が高まっている。

ブロックチェーン技術の応用可能性については、以前からNFTが話題になっていた。NFTはさまざまなアプリケーション分野で革新的なビジネスモデルを可能にするからだ。NFTのマーケットプレイスが世界中に生まれ、膨大な売り上げを記録している。NFTの形式にできるものは、物理的なモノからデジタルアセットまで多岐に及ぶ。アート、ゲームアイテム、ビデオクリップ、ジャーナリストの書いた記事にいたるまで、ブロックチェーンの拠点であるベルリンでも、数多くのプロジェクトが、このトレンドに集中的に取り組んでいる。

メタウォール・ベルリン

ベルリンのストリートアートを中心としたMETAWALLS Berlinは、Collective-Ownership-NFT(集団的所有権-NFT) 、またはCO-NFT(共同NFT)を実現した世界初の取り組みである。NFT作品は一般的に一人で所有するが、この新しい技術は、1つのデジタルアート作品を同等のサイズのシェアに分割することで、集団的な所有を可能にする。CO-NFTのそれぞれのシェアにはスマートコントラクトが付いており、売買や取引が可能となる。

創業者のアリナ・ピリペンコとミカエル・シュナイダーは、ベルリンのストリート・アートシーンに深く入り込み、Street Art BLNと協力し、多数のストリート・アーティストの作品を扱うことに成功した。「私たちのCO-NFT技術は、アーティストがアートのバリューチェーンに直接、公正に、そして独立して参加することを可能にします。作品の最終的な販売決定権は、著作権と同様にアーティストにあります。また、再販の際に重要な役割を果たす著作権もアーティストに帰属します」とピリペンコは説明する。

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集団的所有権NFTを実装し、ベルリンのストリートアートとアーティストをサポートするメタウォール・ベルリンの創業者のアリナ・ピリペンコとミカエル・シュナイダー © Mathias Voelzke

NFTとその新しいフォーマットの活用は、アート界のパラダイムシフトを意味している。CO-NFTは、アート作品の所有は一度に一人の人間にしかできないという考えを覆すことで、この概念を拡張しており、CO-NFTは、魅力的で利益を生む可能性のある事業であると同時に、志を同じくする人たちとのコミュニティやネットワーキングを促進することで、ストリート・アーティストの経済的支援や、ベルリンという都市のアートエコシステムに貢献することをめざしている。

壊れたインターネットからWeb3へ

1990年代初頭、ワールドワイドウェブ(WWW)は人々が互いにコミュニケーションを取り、情報を入手する方法を変えた。原則として、インターネットは誰のものでもないため、もともと分散型に編成されていた。ソーシャルメディアとeコマース・プラットフォームの出現により、WebはWeb2.0に進化した。

「信頼できる」仲介者として、大規模プラットフォームは、継続的に最適化され、ユーザーの生活を便利にした。しかし、プラットフォームはユーザーのデータを完全に制御でき、独自のルールを設定して、誰がどのサービスをいつ利用したかを正確に追跡できるため、プライバシー保護などに問題が生じてきた。

この事実が、現在のインターネットを「壊れた」と呼ぶ人が増えている理由である。一元化されたアーキテクチャは、プラットフォーム経済で普及しているため、インターネットの初期の夢が望んでいなかった不都合な点をもたらしてきた。多くの専門家は、テクノロジーとしてのブロックチェーンは、真に分散化されたインターネットへの道のりにおいて、非常に価値があると考えている。

現在のインターネット・プロトコルは主に企業によって定義されており、このため、セキュリティとID(プライバシー)の重要な領域に関する標準はほとんどない。Facebook、Google、Amazonなどの企業が巨人になることを可能にしたのはこれらの基準の欠如だった。

テクノロジーとしてのブロックチェーンは、中央のプラットフォームや仲介者を必要とせずに、安全に分散化された方法でユーザーのIDを検証し、個人データの安全な交換を可能にするため、「壊れたインターネット」問題を解決する可能性がある。

プロフィール

武邑光裕

メディア美学者、「武邑塾」塾長。Center for the Study of Digital Lifeフェロー。日本大学芸術学部、京都造形芸術大学、東京大学大学院、札幌市立大学で教授職を歴任。インターネットの黎明期から現代のソーシャルメディア、AIにいたるまで、デジタル社会環境を研究。2013年より武邑塾を主宰。著書『記憶のゆくたて―デジタル・アーカイヴの文化経済』(東京大学出版会)で、第19回電気通信普及財団テレコム社会科学賞を受賞。このほか『さよならインターネット GDPRはネットとデータをどう変えるのか』(ダイヤモンド社)、『ベルリン・都市・未来』(太田出版)などがある。新著は『プライバシー・パラドックス データ監視社会と「わたし」の再発明』(黒鳥社)。現在ベルリン在住。

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