コラム

個人が直接収益化する「クリエイター経済」が、世界の経済・社会を変えつつある

2021年06月24日(木)18時15分

自己収益化の現状

インフルエンサーやクリエイターがより本格的なキャリアに進化するにつれ、間接的なマネタイズでは不十分であることが判明した。現在、大手ソーシャルメディアに取って代わろうとする新しいプラットフォームが急増しており、ユーザーが作成したコンテンツの価値を認めて対価を支払っている。また、主要なクリエイターは、新しいプラットフォームにユーザーを引き寄せるほどの影響力を持つようになり、プラットフォームが彼らに報酬を与える動機付けにもなっている。

例えば、有料ニュースレター・プラットフォームであるSubstackのライターは、購読料収入の90%を受け取っており、ライブストリーミング・サービスTwitchのパートナーは、収益の半分を受け取っている。アーティスト支援プラットフォームのPatreonのクリエーターには、収益の88%から95%が支払われている。自分の「ファン」専用のコンテンツを提供することができるOnlyFansのクリエイターは、収益の80%を受け取っている。

経済雑誌Forbesの報道によると、上位のYouTubeチャンネルは、2019年6月から2020年6月の間に2億1,100万ドルを手に入れ、有名なInstagramのインフルエンサーは、1回の投稿で最大6桁の収入を得ており、Substackのトップライターは、年間100万ドルもの収入を得ている。2011年以降、自分の作品を販売できる決済サービスであるGumroadのクリエイターは、Gumroad上でコンテンツを販売し、4億6,000万ドル以上を稼いでいる。

クリエイターのためのツール開発

Facebook、Spotify、Twitterなどの大手企業は、個人クリエイターの注目を集めるために、小規模な新興企業との競争に打ち勝つ新しいツールの構築や獲得を競っている。なぜそれが重要なのか?パンデミックの最中、ニッチなファン層に向けてコンテンツを制作する個人クリエイターに大きな注目が集まったからだ。

ブランドや消費者がそれに気づいた今、ビッグテック企業も参入を狙っている。大手プラットフォームは、企業からの広告収入を得ることに多くの時間を費やしてきたが、個人クリエイターがオーディエンスを作り、収益を上げるためのツールの開発には遅れをとってきた。

その穴を埋めるように、ライブオーディオの「Clubhouse」、グループチャットの「Discord」、ショートビデオの「TikTok」、ニュースレターの「Substack」、アーティストへのチップや報酬の「Patreon」など、ここ数年で新しい新興企業が次々と台頭してきた。そして今、これらのサービスは、より大きな企業との競争に直面し始めている。

最近、Spotifyは、新しいライブオーディオ・アプリ「Greenroom」を発表した。Facebookは、新機能「Live Audio Rooms」の最初のベータテストを開始した。Twitter Spacesは先月拡張され、Clubhouseの先行領域を侵食しようとしている。

市場の拡大とその未来

クリエイター経済の市場は急拡大しており、彼らの注目度を集めるための競争は、今後ますます激化すると予想されている。ベンチャー投資企業のSignalFireによると、世界中で自分をクリエイターだと思っている人は約5,000万人いると言われ、そのうち4,670万人はアマチュアで、200万人以上はプロのクリエイターであり、自分の情熱でフルタイムの収入を得ていると考えられている。

注目すべきは、プロのクリエイターの半数(約100万人)はYouTubeで収入を得ており、25%(50万人)はInstagramで収入を得ている。プロのクリエイターのためのもう一つの大きなプラットフォームはTwitchで、30万人のプロのストリーマーがいる。残りの約20万人は、俳優、音楽、ポッドキャスティング、ブログ、執筆、イラストなど、他の方法でクリエイターとしての収入を得ているという。

プロフィール

武邑光裕

メディア美学者、「武邑塾」塾長。Center for the Study of Digital Lifeフェロー。日本大学芸術学部、京都造形芸術大学、東京大学大学院、札幌市立大学で教授職を歴任。インターネットの黎明期から現代のソーシャルメディア、AIにいたるまで、デジタル社会環境を研究。2013年より武邑塾を主宰。著書『記憶のゆくたて―デジタル・アーカイヴの文化経済』(東京大学出版会)で、第19回電気通信普及財団テレコム社会科学賞を受賞。このほか『さよならインターネット GDPRはネットとデータをどう変えるのか』(ダイヤモンド社)、『ベルリン・都市・未来』(太田出版)などがある。新著は『プライバシー・パラドックス データ監視社会と「わたし」の再発明』(黒鳥社)。現在ベルリン在住。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米ロ外交協議中止、米国決定とロシア報道官 関係改善

ワールド

イラン、敵対行為終結に向け米・イスラエルと協議模索

ワールド

イラン首都上空の制空権を掌握、勝利に向かっている=

ワールド

イスラエル、テヘラン西部の軍事基地を攻撃=ファルス
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 3
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 4
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 7
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    コメ高騰の犯人はJAや買い占めではなく...日本に根…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story