コラム

Qアノンは数百万人のユーザーによる「代替現実ゲーム」だった

2021年02月09日(火)19時28分

トランプが不在でも、QAnonの陰謀神話が消えることはないだろう...... REUTERS/Carlos Barria

<最近、米国のジャーナリストや学者は、QAnonを「作りかけの宗教」と呼んでいる。QAnonとは何だったのか...... >

パンデミックが求めた<物語>

QAnonに決定的な影響を与えたとされるイタリアの作家集団「ウー・ミン」が、QAnonは大規模な「代替現実ゲーム」だったと報じて以来、QAnonや反コロナをめぐるインフォデミック(誤情報の急速な世界的拡散)の原因探しが再燃している。

2020年8月29日、ドイツ政府のCovid-19対策に抗議する数百人のデモ隊がベルリンの連邦議会議事堂への乱入を図り、2021年1月6日、ワシントンで起きたドナルド・トランプ支持者による合衆国議会議事堂襲撃事件では、5人の死者が出た。大西洋の両側の抗議行動をつないでいたのは、当局への強い不信と陰謀論への信念だったが、「ゲーム」という可能性も加わった。

トランプが悪魔主義者と小児性愛者による「深層国家」から世界を守ると主張するQAnonの陰謀説は、米国内で最も激しい抵抗運動であったが、ドイツ各地で起きた反コロナ+ロックダウン反対運動を展開する人々にも影響を与えていた。

QAnonはなぜ「世界」を魅了したのか?インターネットは陰謀論者の天国となり、パンデミックは私たちを停滞の中に閉じ込めた。人々は空想的なアイデアに投資する時間と理由を多く持っていた。見えない恐怖とともに、複雑な世界に生きている人々は、混沌とした状況を説明してくれる物語を求めた。

しかし、インフォデミックの根本的な原因はまだ解明されていない。インフォデミックを推進したQAnonという運動体のルーツをたぐり寄せていくと、1970年代、自律主義を提起したアウトノミア運動を端緒に、1990年代に活動していたイタリアの破天荒な左翼系作家グループにたどり着く。

偽情報とインフォデミック

2020年2月、世界保健機関(WHO)が、Covid-19の「インフォデミック」を報告して以来、陰謀論や偽情報がソーシャルメディア上に広まりはじめた。ワシントンポスト誌は3月下旬、フェイスブックのニュースフィードの50%近くがCovid-19に関連しており、非常に少数の「影響力のある投稿者」が膨大な数のユーザーに影響を与えていると報告した。

米国を拠点とし、気候変動や人権問題に関する世界的な活動を推進するAvaazが5月に行った調査では、Covid-19の誤った情報を広める80以上のウェブサイトが公表された。そのうち最も人気のある10のウェブサイトのコンテンツは、フェイスブックで約3億回再生された。

2020年8月、フェイスブックは、少なくとも450万人のフォロワーを持つ790以上のQAnon関連グループと1,500の関連広告を禁止した。インフォデミックの中心では、反コロナやQAnonのような陰謀論が渦巻いていた。

プロフィール

武邑光裕

メディア美学者、「武邑塾」塾長。Center for the Study of Digital Lifeフェロー。日本大学芸術学部、京都造形芸術大学、東京大学大学院、札幌市立大学で教授職を歴任。インターネットの黎明期から現代のソーシャルメディア、AIにいたるまで、デジタル社会環境を研究。2013年より武邑塾を主宰。著書『記憶のゆくたて―デジタル・アーカイヴの文化経済』(東京大学出版会)で、第19回電気通信普及財団テレコム社会科学賞を受賞。このほか『さよならインターネット GDPRはネットとデータをどう変えるのか』(ダイヤモンド社)、『ベルリン・都市・未来』(太田出版)などがある。新著は『プライバシー・パラドックス データ監視社会と「わたし」の再発明』(黒鳥社)。現在ベルリン在住。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米政権「トランプ氏の交渉術の勝利」、カナダのデジタ

ワールド

EU、米関税一律10%受け入れの用意 主要品目の引

ビジネス

ECB総裁「世界の不確実性高まる」、物価安定に強力

ワールド

トランプ氏、7月7日にネタニヤフ首相と会談 ホワイ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引き…
  • 8
    飛行機のトイレに入った女性に、乗客みんなが「一斉…
  • 9
    自撮り動画を見て、体の一部に「不自然な変形」を発…
  • 10
    顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story