コラム

欧州連合がGAFAを厳格に規制する法案を発表──世界のデジタル経済の行方を左右する

2020年12月22日(火)16時10分

デジタルサービス法は、オンライン・プラットフォームがユーザーに透過的な情報を提供することを義務付ける。個人化された追跡広告がどのように作成されるかをユーザーに明示する義務がある。アルゴリズムの役割やランキングの生成も、透過的に処理する必要があり、それがどのように発生し、プラットフォーム上でどのコンテンツが表示または推奨されるのか、そのメカニズムもユーザーに明示しなければならない。

情報の仲介者としてのゲートキーパーの責務

DSAとは対照的に、デジタル・マーケット法は「ゲートキーパー」を規制することを目的としている。これらは、EUで活動し、多くの企業とユーザーの間を仲介する大規模なプレーヤーを意味する。欧州経済領域で、年間売上高が少なくとも65億ユーロ(約8,232億円)、月間エンドユーザーが少なくとも4500万人、EUで毎年1万人を超える商用ユーザーを持つ企業が対象となる。

欧州委員会の焦点は、検索エンジン、ソーシャルネットワーク、仲介サービス、および市場の制御にある。公正競争の責任者であるベステアーは、アマゾンのような企業は、不公正な商慣行を通じて競合他社を減速させ、不利にさせていると繰り返し批判してきた。これが、不公正な慣行を持つ企業ブラックリストが計画されている理由の1つである。

DMAは、ブラックリストに掲載される企業の、どのような慣行が禁止されるかを規定している。アマゾンは、サードパーティの小売業者からのデータを自社の活動に使用するべきではないし、欧州委員会は、アマゾンがサードパーティのディーラーから販売に成功した製品を「引き継ぐ」ことや、自社の製品を低価格で販売することを防ぐべきだと指摘している。

法案はまた、アマゾンがしばしば非難される自己優先の禁止を規定している。したがって、プラットフォーム・オペレーターは、他の商用ユーザーと競合している場合、ランキングで自分のオファーを表示または宣伝してはならない。また、ゲートキーパーは、ユーザーが事前にインストールされたソフトウェアやアプリを、ユーザーに「強制的に」インストールさせることを禁止する必要がある。この規制は、主にグーグルとアップルのスマートフォンOSを対象としている。

同時に、ゲートキーパーは、プラットフォームでの活動を通じてユーザー自身が生成したデータへのアクセスを、ユーザーに許可しなければならない。さらに、メッセンジャー・サービスまたはソーシャルネットワークは、将来の相互運用性を保証する必要がある。例えば、WhatsAppユーザーが、Telegramユーザーなどとメッセージを交換できることを意味している。

EUはビッグテックの解散を狙っているのか?

ゲートキーパーがDMAの規制に違反した場合、厳しい罰則が課せられるはずだ。違反が発生した場合、EUは、世界での年間売上高の最大10%の罰金と、平均の日次売上高の最大5%の定期的なペナルティ支払いを課すことができる。

世界最大の立法権限を有する欧州委員会は、特に重大な違反の再発の場合、特定の事業領域の売却措置を企業に強制する。つまり、欧州委員会は、企業を解散させることができると迫っているのだ。これは現状のEU法では規定されていない強硬な措置である。

プロフィール

武邑光裕

メディア美学者、「武邑塾」塾長。Center for the Study of Digital Lifeフェロー。日本大学芸術学部、京都造形芸術大学、東京大学大学院、札幌市立大学で教授職を歴任。インターネットの黎明期から現代のソーシャルメディア、AIにいたるまで、デジタル社会環境を研究。2013年より武邑塾を主宰。著書『記憶のゆくたて―デジタル・アーカイヴの文化経済』(東京大学出版会)で、第19回電気通信普及財団テレコム社会科学賞を受賞。このほか『さよならインターネット GDPRはネットとデータをどう変えるのか』(ダイヤモンド社)、『ベルリン・都市・未来』(太田出版)などがある。新著は『プライバシー・パラドックス データ監視社会と「わたし」の再発明』(黒鳥社)。現在ベルリン在住。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

GM、通期利益予想引き下げ 関税の影響最大50億ド

ビジネス

米、エアフォースワン暫定機の年内納入希望 L3ハリ

ビジネス

テスラ自動車販売台数、4月も仏・デンマークで大幅減

ワールド

英住宅ローン融資、3月は4年ぶり大幅増 優遇税制の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story