コラム

ドイツでもっとも後進的だった電力業界に起きた破壊的イノベーション

2020年10月09日(金)13時00分

電力の分散取引を可能にしたブロックチェーン

電気自動車の充電は、電気が安いときにだけに行いたいと思う人は多い。しかし、これを実現するには、夜間の電気だけでなく、一時間ごとに電気料金の変動に対応し、実際に安価な電気の供給を実行できる仕組みが必要となる。

リチオンは、こうした仕組みにブロックチェーン技術を用いることで対応する。分散化アプリケーションに特化したリーサリアムを元にしたブロックチェーン・エネルギー取引ソリューションを、電気自動車の充電ステーションに接続するなど、スマートで実用的な計画も視野に入れている。現在、リチオンの顧客は毎月のエネルギー料金を約20%節約し、生産者は最大30%高い利益を生み出している。生産者が顧客によって選択されると、意思決定力はエネルギー・コングロマリットから消費者にシフトすることになる。

リチオンは、ブロックチェーン技術を電力の需要と供給のピア・トゥ・ピアに対応させ、プラットフォームを完成させた。分散する生産者と消費者を直接接続し、グリーンなエネルギーを簡単かつ費用効果の高い方法で取引を可能にしたのが特徴である。ドイツでは、すでに170万の住宅に太陽光発電が導入されている。これは自然エネルギー電力生産の徹底した分散化であり、電力は中央の大規模発電所や電力取引の寡占だけではなく、170万を超える太陽光発電設備も支えている。

2020年6月、リチオンは家庭用ソーラーシステムを販売しており、住宅所有者をエネルギーの「プロシューマー(生産消費者)」に変え、余剰エネルギーを市場に直接販売できるオプションも用意されている。グリーン電力を購入する消費者は、将来を見通している。しかし、電力市場のシステムは時代遅れとなっている。リチオンは、この市場を変えたいと考えてきた。

確立された公益事業は、依然として市場シェアの大部分を占めている。しかし、リチオンに代表される電力市場の革命家の登場で、今後数年でレガシーは崩壊し、スタートアップが電力ビジネスの大部分を奪うだろうと予測されている。リチオンはエネルギー企業ではなく、エネルギーも販売するテクノロジー企業なのだ。

電力交換価格の正確なルート

電気料金は1時間ごとに調整され、消費者に直接提供できる。旧来のエネルギー会社は、それを消費者に還元せず、約100年間、固定的な料金体系を維持してきた。彼らには力、資金があるが、最適な電力供給のためのソリューションを顧客に提供していない。現在、電力供給の最適化に挑むスタートアップが焦点とするのは、まさに大手電力会社の覇権と消費者の間にあるギャップなのだ。

ドイツ連邦エネルギー&水管理協会(BDEW)によると、ドイツには約1,300の電力サプライヤーがあり、顧客はどこに住んでいるかに関係なくサプライヤーを選択できる。2019年には、合計約2,200社がドイツのエネルギー市場で活躍している。現在でもビッグ4は、依然として国内市場のほぼ半分を独占しているが、その力は崩壊しつつある。市場をクリーンアップしたいと考えるデジタルでグリーンな企業が増加しており、それは間違いなくドイツのグリーン・トレンドとなっている。

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旧発電所の広大なスペースを再利用したベルリンのKraftwerkでは、インダストリアルとテクノの祭典であるBerlin Atonalが毎年夏に開催されている。

そして何より重要なのは、彼らは長い間顧客に伏せられていた電力会社の主要な公益性を明らかにし、大手電力会社と顧客とのギャップを埋めたことである。本来顧客のためのイノベーションを怠り、安定的な利益追求に邁進してきた大手電力会社は、今、革命の嵐の前で怯えている。

ドイツには以前、いくつかの原発や大規模な発電所があったが、今では全国に何千ものグリーン発電所がある。その間、電力消費量は増加しており、電気自動車は充電を必要とし、スマートフォンは常にソケットに接続されている。暖房も今や電気に依存している。しかし、エネルギーは消費者にとってますます高価になっている。そのため、複雑な新エネルギーの世界にソリューションを提供する新興企業が増えているのだ。

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大手電力会社Vattenfall所有のベルリン中心部の旧発電所。現在はベルリンの有名クラブTresorとKraftwerkという巨大なイベントスペースとなっている。

プロフィール

武邑光裕

メディア美学者、「武邑塾」塾長。Center for the Study of Digital Lifeフェロー。日本大学芸術学部、京都造形芸術大学、東京大学大学院、札幌市立大学で教授職を歴任。インターネットの黎明期から現代のソーシャルメディア、AIにいたるまで、デジタル社会環境を研究。2013年より武邑塾を主宰。著書『記憶のゆくたて―デジタル・アーカイヴの文化経済』(東京大学出版会)で、第19回電気通信普及財団テレコム社会科学賞を受賞。このほか『さよならインターネット GDPRはネットとデータをどう変えるのか』(ダイヤモンド社)、『ベルリン・都市・未来』(太田出版)などがある。新著は『プライバシー・パラドックス データ監視社会と「わたし」の再発明』(黒鳥社)。現在ベルリン在住。

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