最新記事

日本

「ヒュブリス」だった東京五輪が日本に残す教訓

THE TOKYO "HUBRIS" OLYMPICS

2021年9月8日(水)10時30分
西村カリン(ジャーナリスト)

magSR20210908hubrisolympics-1.jpg

8月8日の五輪閉会式では日本、五輪発祥の地ギリシャ、24年のホスト国フランスの国旗が並んだ KAREEM ELGAZZAR-USA TODAY SPORTS-REUTERS

今回、日本の国民を安心させるため政府と五輪主催者は多くの厳しいルールを定めたが、ほとんどチェックされなかった。非現実的なルールだったからだ。

五輪期間中の2週間外出せず、買い物もしないというルールはなかなか守れない。記者が突然、何かが要ると気付くこともあるだろう。「ここは隔離施設ではない。お客さんの監視はわれわれの仕事ではないし、やりたくない」と、あるホテルの社長は言った。

完全に行動を管理するには、外せない電子タグが必要だった。でも相手は受け入れないだろうから、政府や組織委員会は国民に事実を説明すべきだった。結果的に「徹底した行動管理」などできず、政府は信頼を裏切った。

関係者が一般人を感染させたとは言い切れないが、検査方法も「安全・安心」を保証するものではなかった。

選手らは検査を毎日行う。ただそれは抗原検査で、PCR検査と異なり、感染しても無症状だと陽性にならないリスクがある。専門家はそう言ったが、IOCと組織委員会は否定した。

他の関係者はPCR検査を受けたが、頻度は4日に1回や1週間に1回などバラバラ。仕組みは簡単だが「セルフサービス」で、唾液検査キットのバーコード番号などを自分で登録する。それが間違っていても、本人には分からない。だから、陽性なのに誰の検体か不明なケースもあった。

「上から目線」を続けたIOC

検査数と陽性者数が毎日発表されたが、組織委員会が強調したのは累計の検査数と陽性率だ。例えば7月1日~8月22日のスクリーニング検査は累計74万7797件で、陽性者は217人。組織委員会の計算方法だと陽性率は0.03%だ。

こんな陽性率は科学的に意味がない。陽性になった人はその後スクリーニング検査を受けないから、同じ集団を何度も検査するほど陽性率は低くなっていくからだ。

一般的に使われるのは1日平均の陽性率、または人口10万人当たりの7日間の陽性者数。私はそのことを何度も指摘したが、IOCも組織委員会も科学的な説明ができなかった。残念なことに、日本のマスコミはその非科学的な陽性率をそのまま報道していた。

専門家ではない私のようなジャーナリストが指摘しても何も変わらないだろうから、ここは専門家に介入してほしかった。IOCなどは「良い数字」を出すことが目的だから、専門家が「駄目だ」と言わない限り、都合の良いことしか発表しない。

7月1日~8月23日の間、五輪関係者に約550人の陽性者が出た(前述の217人を含む)。

何人が検査を受けたかは明確にされていないが、五輪のための来日人数は約4万3000人。国内在住の大会関係者は約19万人だというから、合計23万3000人。その中で陽性者550人は、例えば東京都の数字と比べれば多いとは言えない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

世界のLNG需要、今後10年で50%増加=豪ウッド

ビジネス

午前の日経平均は続伸、一時初の4万5000円 米ハ

ワールド

EU、気候変動対策の新目標で期限内合意見えず 暫定

ワールド

仏新首相、フィッチの格下げで険しさ増す政策運営 歳
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中