最新記事

東京五輪

国民の不安も科学的な提言も無視...パンデミック五輪に猛進する日本を世界はこう見る

A REFUSAL TO FACE REALITY

2021年6月17日(木)17時57分
西村カリン(仏リベラシオン紙東京特派員)

210615P18teams_KRN_04.jpg

来日一番乗りはオーストラリア選手団 BEHROUZ MEHRI-POOL-REUTERS

五輪を取材する日本在住の記者は、来日したばかりの外国人記者とメディアセンターで接触する。その後に公共交通機関で帰宅したり、買い物をしたり、保育園に子供を迎えに行く。つまり、一般人と外国報道陣は間接的に接触することになる。

「プレイブック」と呼ばれる感染防止策の手引書も、実効性が問われる項目が少なくない。例えば報道関係者の間の密を避けることは、現実的には難しい。

6月1日にオーストラリアの女子ソフトボール選手団が群馬県太田市に到着した際には、狭い場所に数十人のカメラマンや記者が集まった。筆者も現場にいたが、1人当たり70センチ四方程度のスペースしかなかった。だが記者は文句を言わないし、言えない。言えば自分の仕事ができなくなるからだ。

海外報道陣の行動制限は物理的に無理

来日する予定の8000人の海外報道陣は試合だけでなく、幅広いテーマについて取材するのが目的だ。「それは禁止だ、行動を監視する」と政府が強調しても、既に一部の海外記者は監視されないように戦略を考えている。例えば、記者はスマートフォンで自分の位置情報を政府に報告することが求められるが、それはあくまでスマホの位置情報だ。日本にスマホを2台持ってくれば大丈夫だと考えている記者もいる。

来日前に取材計画を提出するのも義務だが、日本にいない記者が一体どうやって細かい計画を立てることができるのか。8000人の記者の計画を誰がチェックして、許可を出すのか。物理的に可能なのか。結局、記者を含めて来日する7万8000人に外せないGPS電子タグを着けさせない限り監視は無理だろう。

そもそも日本政府は開催反対、または抵抗を示す専門家の意見を軽視しがちだ。政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は国会の専門委員会で何度も、大会開催が起こす感染リスクについて発言した。6月1日には「五輪をやれば、さらに医療に負担がかかるリスクがある」、2日には「今のパンデミックの状況で開催するのは、普通はない」と述べた。

しかし、こうした意見は政府や組織委員会に無視される。丸川珠代五輪相も「われわれはスポーツの持つ力を信じて今までやってきた。全く別の地平から見てきた言葉をそのまま言っても、なかなか通じづらい」と、尾身発言を片付けた。最近は政府や自民党から尾身への不満の声まで上がり始めている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米テキサス州洪水の死者43人に、子ども15人犠牲 

ワールド

マスク氏、「アメリカ党」結成と投稿 中間選挙にらみ

ビジネス

アングル:プラダ「炎上」が商機に、インドの伝統的サ

ワールド

イスラエル、カタールに代表団派遣へ ハマスの停戦条
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 8
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    「登頂しない登山」の3つの魅力──この夏、静かな山道…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中