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国民の不安も科学的な提言も無視...パンデミック五輪に猛進する日本を世界はこう見る

A REFUSAL TO FACE REALITY

2021年6月17日(木)17時57分
西村カリン(仏リベラシオン紙東京特派員)

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盛り上がらなかった双葉町での聖火リレー KIM KYUNG-HOON-REUTERS

では、新型コロナのパンデミック(世界的大流行)という状況の中で「安心・安全の大会を実現することは可能だ」と政府はなぜ判断したのか。どんな議論で、どんなプロセスで「開催できる」との結論にIOCら主催者は至ったのか。残念ながら、そのあたりはよく分からない。

山口は「IOCには欧米の方が多いので、日本の感染者を見て、状況はコントロールされていると感じていると思う」と推測する。「実際には、コロナ患者を受け入れられる病院は少ないし、若い人でも入院できず自宅で亡くなるケースが少なからずある状況だ。『また感染が拡大したら医療現場は大変なことになる』と日本人は心配しているが、たぶん、そのことを日本側がIOCにうまく伝えていないんだと思う」

確かに海外では、日本の感染状況や医療現場の様子はあまり理解されていない。なぜなら、日本での1日の新規感染者が平均5000人に上ったとしても、欧米の国よりまだ少ないからだ。フランスでは落ち着いたと言える状況になった5月でも、まだ1日で1万~1万5000人の新規感染者が報告されていた。

五輪関係者と国民の「格差」

重症者数も、日本は最多の日でも1500人にならなかったが、フランスでは「ようやく少なくなった」とラジオ出演した医師が語った頃でも3000人ほどがICU(集中治療室)にいた。

おそらくIOCの幹部は、欧米のように日本でも、誰でもどこでもいつでも、無料でPCR検査を受けられると思っている。残念なことに実際はそうではない。そして日本国民を安心させるために、IOCと政府が五輪関係者へのPCR検査を増やし、ワクチン接種を積極的に進めようと対策を強化すればするほど、国民に提供される感染防止対策との格差が広がってしまう。

IOCは感染対策を重視しているとはいえ、それは優先的に選手を守る内容だ。日本のボランティアたちのPCR検査をするかしないかの判断基準は、「選手と接触機会があるかどうか」。選手に近づかないボランティアにPCR検査は不要という結論だ。

だが政府が「国民の命と健康を守っていく」という言葉を守るなら、全てのボランティアにも何度も徹底的に、PCR検査をすると決めるべきだった。

また、政府や組織委員会が国民を安心させるために言っていることは、現実と大きく異なる可能性が高い。例えば、「外国からの報道陣は一般人と接触しない」という点はどうか。

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