最新記事

東京五輪

国民の不安も科学的な提言も無視...パンデミック五輪に猛進する日本を世界はこう見る

A REFUSAL TO FACE REALITY

2021年6月17日(木)17時57分
西村カリン(仏リベラシオン紙東京特派員)

210615P18tachikawa_KRN_02.jpg

五輪開催に反対する声は政府に届かない(立川相互病院) YUSUKE MAEKAWA-NEWSWEEK JAPAN

「今回のオリンピックはやらないほうがいいと思うので、協力しない。少なくとも僕の周りの人たちは、なぜオリンピックをやるのかという疑問を持っている人がほとんどだ」と、横須賀にある民間病院の病院長は言う。「東京に来ないでくださいとまで言っているのに、なんで世界から人を集めるの? もうちょっと一貫した議論をやってほしかった」

東京五輪の是非についての議論が全くないことは、海外から見れば大変な驚きだ。

本誌のインタビューに応じた山口香JOC(日本オリンピック委員会)理事はこう分析する。「政府や五輪組織委員会、JOCからはこれまで一度も、もしかしたらできないかもしれないという話が出たことはない。それはパリ行きの飛行機がいったん飛んだら、パリに着陸することだけを考えろというようなもので、途中で何かあっても、違う所に降りたり、引き返したりすることはないというマインドでいる。だから国民は不安なんですよ」

IOCに現状が伝わらず?

筆者が東京都や福島、大阪、長野、群馬の各県で数十人の一般人を取材したところ、東京五輪をやってもいいと答える人は1割以下だった。「いろいろな心配があるからやめたほうがいい、無理」と高齢者は強調し、若者も「普通にレストランにも行けないのに、なぜオリンピックだけOKなのか」といった意見がほとんどだ。東京五輪反対のデモ活動の参加者は多くない。でもその理由は、「コロナ禍でデモをするのはおかしい」という考えからだろう。

しかし7~8割の国民が東京五輪の「中止」や「再延期」を求めても、政府の立場は変わらない。上から目線のIOCにノーと言えない日本政府。アスリート、スポンサー、マスコミや他の関係者を満足させることが目的のIOC。「日本に対するIOCの姿勢があまりにもひど過ぎる。将来オリンピックを開催したいと思う国がどれぐらいあるだろうか?」と、フランスの雑誌記者のマチューは筆者に語った。

この状況は、日本の態度にも一因があるのかもしれない。「日本人は何かを頼まれたときに、できないと分かっていても『善処します』『頑張ってみます』と曖昧な答えをする。日本側が『なんとか頑張ります』と言えば、IOC側は『できる』と捉える。だからIOCとしては、『組織委員会や日本政府が大丈夫だと言っているのに、なぜ国民は怒っているのか?』と不思議に思っているのではないか」と、山口は言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

三井物産、26年3月期は14%減益見込む 市場予想

ビジネス

エアバスCEO、航空機の関税免除訴え 第1四半期決

ビジネス

日銀、無担保コールレート翌日物の誘導目標を0.5%

ワールド

日韓印とのディール急がず、トランプ氏「われわれは有
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 2
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 3
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中