最新記事

脳科学

脳とマシンをつなぐ埋め込み型デバイスで、サルが思考だけでゲームすることに成功した

2021年4月15日(木)17時00分
松岡由希子
neuralink

脳にチップを埋め込んだ猿が思考だけで卓球ゲーム「ポン」をプレイした...... neuralink-YouTube

<イーロン・マスクが設立したニューラリンク社は、ヒトの脳とコンピュータをつなぐ「ブレイン・マシン・インターフェイス」の研究開発をすすめているが、チップを埋め込んだサルが思考だけでビデオゲームをプレイすることに成功した...... >

米国の起業家イーロン・マスク氏が2016年7月に創設したニューロテクノロジー企業「ニューラリンク」は、ヒトの脳とコンピュータをつなぐ「ブレイン・マシン・インターフェイス(BMI)」の研究開発をすすめている。

思考だけで卓球ゲーム「ポン」をプレイした

2020年8月、3匹の子ブタを用いて、埋め込み型ブレイン・マシン・インターフェイスデバイスのプロトタイプ「リンク0.9」のデモンストレーションを実施したのに続き、2021年4月8日、脳に「N1リンク」を埋め込んだサルが思考だけでビデオゲームをプレイする動画を公開した。

Monkey MindPong

ニューラリンクは、1024本の電極を用いて神経活動を記録し、そのデータを無線通信によりリアルタイムで外部のコンピュータに送信する埋め込み型デバイス「N1リンク」を9歳のオスのマカクザル「ペイジャー」に埋め込んだ。手と腕の動きを司る左右2カ所の運動皮質に「N1リンク」が配置されている。

Neuralink-pig2020.jpg

昨年披露された埋め込み型デバイスのプロトタイプ「リンク0.9」 neuralink

ペイジャーは、ゲーム用ジョイスティックを使ってスクリーン上のカーソルを移動させ、白いドットをオレンジ色のマスに入れるゲームを行った。成功すると銀のストローから好物のバナナスムージーが得られる仕掛けだ。ゲーム中、ペイジャーの神経活動は2000本以上の電極によって絶えず記録され、Bluetoothによって、25ミリ秒ごとに、復号化ソフトウェアを実行中のコンピュータへと転送される。

ニューラリンクは、これらのデータを復号化アルゴリズムに与え、神経活動のパターンと意図した運動方向をモデル化。ペイジャーが意図する手の動きの方向や速度を予測し、この予測をもとにコンピュータ上のカーソルの動きをリアルタイムで制御することに成功した。

ペイジャーは、ゲーム用ジョイスティックがコンピュータと接続されていない状態でも、意に沿ってカーソルを動かし続けた。また、動画の後半では、ペイジャーが、ゲーム用ジョイスティックを用いることなく、思考だけで卓球ゲーム「ポン」をプレイする様子も映っている。

「2021年末までに、ヒト臨床試験を開始できるかもしれない」

ニューラリンクでは、ブレイン・マシン・インターフェイスが、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経疾患の治療に役立つと考えている。マスク氏は、「麻痺のある人が、親指を使うよりも早く頭の中でスマホを操作できるようになる」とツイートした。2021年2月には、その安全性の検証をすすめるとともに、アメリカ食品医薬品局(FDA)と密接にやり取りしていることを明かし、「2021年末までに、ヒト臨床試験を開始できるかもしれない」との見通しを示した。


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザ住民のリビア移住計画、米大使館が報道内容を否定

ワールド

メキシコ海軍の訓練船、ブルックリン橋に衝突 2人死

ワールド

米最高裁、敵性外国人法での不法移民送還差し止め継続

ワールド

イスラエルとハマスが停戦交渉再開、ガザでは72時間
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2029年 火星の旅
特集:2029年 火星の旅
2025年5月20日号(5/13発売)

トランプが「2029年の火星に到着」を宣言。アメリカが「赤い惑星」に自給自足型の都市を築く日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」する映像が拡散
  • 4
    「運動音痴の夫」を笑う面白動画のはずが...映像内に…
  • 5
    MEGUMIが私財を投じて国際イベントを主催した訳...「…
  • 6
    配達先の玄関で排泄、女ドライバーがクビに...炎上・…
  • 7
    米フーターズ破綻の陰で──「見られること」を仕事に…
  • 8
    メーガン妃とヘンリー王子の「自撮り写真」が話題に.…
  • 9
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 10
    中ロが触手を伸ばす米領アリューシャン列島で「次の…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」する映像が拡散
  • 4
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映…
  • 5
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」に…
  • 6
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 7
    あなたの下駄箱にも? 「高額転売」されている「一見…
  • 8
    トランプ「薬価引き下げ」大統領令でも、なぜか製薬…
  • 9
    ヤクザ専門ライターが50代でピアノを始めた結果...習…
  • 10
    宇宙の「禁断領域」で奇跡的に生き残った「極寒惑星…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
  • 6
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 8
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 9
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 10
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中