最新記事

ルポ新宿歌舞伎町「夜の街」のリアル

【コロナルポ】歌舞伎町ホストたちの真っ当すぎる対策──「夜の街」のリアル

ARE THEY TO BLAME?

2021年4月2日(金)16時30分
石戸 諭(ノンフィクションライター)

「想定していなかったもう1つの感染経路があった」(吉住)

それは寮だ。ホスト業界でそれなりの家に住んでいるのは一部のカリスマや人気ホストだけであり、地方から出てきたばかりの若いホストや、まだ売れないホストはマンションなどで共同生活をする。あるホストクラブの寮は3LDKのマンションで、一部屋に2人が住み、多くのスペースは共有だ。ホストという仕事は、社会からはじかれた人々の受け皿という側面もある。

こういう家に住む若者たちにいくら「自宅待機」と言っても、通用しない。店や外ではマスクを着用していても、家の中ではマスクも外す。彼らは共に生活し、職場に向かい、また同じ家へと帰る。職場と居住空間が同じであり、生活形態はシェアハウスであり、その感染経路はむしろハイリスクとされる家庭内感染のそれに近い。

ホスト「だから」感染が広がるのではなく、彼らの生活スタイルの中にリスクがある。手塚は、その危険性にかなり早い段階から気付いていた。「自宅待機」をいくら呼び掛け教育しても、およそ快適とはいえない寮に24時間いられないホストは外に出ていく。手塚は4月末、フォーブスジャパンのコラムでこんなことを書いている。

《そして何より問題だったのが、ちょっと具合が悪くなったら一般病院に行ってしまい、「追い返された」と不安になり、保健所に電話しまくって繋がらず、更に不安になって直接保健所まで行ってしまったり......

事前に動画で、医療崩壊についてももちろん説明していた。少しでも具合が悪くなったら、行政のガイドラインに従った指示を、冷静に第三者が出来るようにチームを組んで対応を考えるという施策も組んだ。

しかし、微熱が出た従業員たちは、頭ではなく感情で動いてしまった。

理想論は通用しなかった。》

彼のアプローチはリスクをゼロか100かで考えるのではなく、より現実的な落としどころを探るというものだった。ホスト同士の濃厚接触はゼロにはならないからこそ、衛生管理の担当者を決めて定期的に寮の見回りを始めた。求めたのは、清潔にすることであり、感染対策が徹底できていないバーに行かないこと。細かいところから体調管理も徹底し、それを自らにも課した。

◇ ◇ ◇

magSR210401_kabukicho5.jpg

一見華やかなホストクラブだが、裏方は地味だと、店長である蓮 HAJIME KIMURA FOR NEWSWEEK JAPAN

7月上旬、新宿・歌舞伎町2丁目、「Smappa! Group」が経営するホストクラブ「APiTS」のVIPルーム──。入り口にはランキング形式で額縁に入ったホストの写真が並ぶ。ナンバーワンの風早涼太は月間「指名130本」を数える。

彼らは店の「看板商品」である。裏方である店長の蓮は、看板を傷つけないよう常に気を配る。18歳でこの世界に足を踏み入れ、32歳になった今は店長として店とホストを守る立場にある。アイスティーが注がれたコップを手に、白いマスクの下からストローを通す。口の中を湿らせる程度に一口飲み、一息いれると、ぽつりとこんなことを言った。

「何が怖いって、自分が感染することよりも、自分たちがお客様に広げてしまうこと。それが一番怖いですね。店の信頼に関わりますから」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国、米の半導体貿易政策を調査 「差別的扱い」 通

ワールド

アングル:米移民の「聖域」でなくなった教会、拘束恐

ワールド

トランプ氏、NATOにロシア産原油購入停止要求 対

ワールド

中国が首脳会談要請、貿易・麻薬巡る隔たりで米は未回
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人に共通する特徴とは?
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 6
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で最も「火山が多い国」はどこ?
  • 9
    村上春樹は「どの作品」から読むのが正解? 最初の1…
  • 10
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中