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ルポ新宿歌舞伎町「夜の街」のリアル

【コロナルポ】歌舞伎町ホストたちの真っ当すぎる対策──「夜の街」のリアル

ARE THEY TO BLAME?

2021年4月2日(金)16時30分
石戸 諭(ノンフィクションライター)

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HAJIME KIMURA FOR NEWSWEEK JAPAN

小池が連呼した「夜の街」という言葉はメディアを通じて広がり、日増しに「昼の街」との分断を強めた。区役所には「夜の街を閉めろ」「感染者が出た店名を公表しろ」との声が連日届く。新宿区は、新型コロナに感染した区民に10万円の見舞金を給付することを決めている。ホストたちはこのお金を目当てに感染させ合っている、という根拠なき臆測もネット上に流れた。この社会に生きる多くの人にとって「夜の街」は遠い存在であり、だからこそ安心して石を投げ付けられる存在になる。

吉住も高橋もそうした風潮に迎合しない。彼らは一貫して「店名公表は感染拡大防止にとって逆効果になる」という考えを取ってきた。

店名を公表すれば、社会に広く蔓延している処罰感情を満たせるだろう。だが、それによって店名が公表されるリスクを取るくらいなら検査には協力しない、というインセンティブが働く。仮に一地区の店を軒並み営業停止にしたとしても、ホストは地区外の店に職を求めて転々とする。これでは感染リスクが他地域にも広がる。一方、より強硬に全国一斉に店を閉めさせるという策は現実的ではなく、仮に実現しても膨大な補償と失業者が発生する。

吉住も高橋も社会的に処罰して把握できない感染が広がるより、より感染が防げる実務的なやり方を選ぶ。

意見交換の場を見て手塚は思う。

「経営者はビジネスを第一に考える。感染者は出ないほうがいいに決まっている。行政への不信感を拭うことができれば、一致点は築ける。官民一体で取り組んだほうが街全体の感染症対策はうまくいく」

後輩の2社はその日の様子や行政側の対応をすぐに文書にまとめ、LINEを介して大手グループの経営陣に連絡した。事態が動きだしたのはそこからだ。会談に応じる経営者は増え、区側は4日も同じ説明を行った。ここで空気は確実に変わった。

高橋は「グループごとの検査も可能になりました。濃厚接触者を早く割り出すことで、感染経路をつかむことができればいい。今の時点(取材は7月上旬)で、感染者数が大きく増えているのは、関係者が積極的に検査をすることで割り出せている部分も大きい」と言う。

ホスト業界との直接対話に乗り出した吉住は彼らから一定の信頼を、ホスト業界はホットラインを手に入れ、会合は新宿社交料理飲食業連合会や、キャバクラにネットワークを持つ日本水商売協会など他業種も巻き込み、やがて6月18日に「新宿区繁華街新型コロナ対策連絡会」へと発展することになる。

「最良」を報じないメディア

保健所にとって、何より大きかったのは、なぜホストたちの間で感染が広がるのかという謎を突き止めたことにある。彼らもそうだったが、多くの人はホストたち特有の営業形態、例えばシャンパンタワーを作って大声でコールする、あるいは客やホスト同士で肩を組み、回し飲みで乾杯を繰り返す......といったことが原因で起きると想定していた。

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