最新記事

高齢化

長寿社会のデザインとは

2021年2月22日(月)15時03分
坊 美生子(ニッセイ基礎研究所)

レジのようなサービスも道路のようなインフラも徐々に変わらなければ hisa nishiya-iStock.

<コロナになってからスーパーのレジでフリーズしてしまうという高齢女性の投稿があった。いったいなぜか? 高齢者にしかわからない不便に応えるインフラやサービスを作れば、いずれ皆が恩恵を受けられる>

*この記事は、ニッセイ基礎研究所レポート(2021年2月15日付)からの転載です。

新聞に掲載された1本の投稿が、筆者の目を引いた。80歳代の一人暮らしの母親が、新型コロナウイルスの感染拡大後、スーパーへ行くことを嫌がるようになったという娘からの投稿だ1。母親に話を聞くと、マスクを着用した店員の声が聞こえづらく、トレーに置かれた小銭も落としてしまうため、会計時に緊張してしまうのだという。締め括りには、高齢者が焦らずに済むように、急いでいない客専用のレジを設けてはどうか、という提案が述べられていた。長寿化に適応できていない社会のひずみを突くような意見であり、筆者は大いに賛同した。高齢者、特に後期高齢者の特性に合わせて「ゆっくり」のコンセプトが求められているのは、レジ列だけではなく、他の様々な施設や制度、サービスも同じではないだろうか。

少子化と長寿化が同時に進み、50年前に1割もいなかった65歳以上の高齢者は、2020年時点で3割近くに達している2。しかも、その半分以上が75歳以上の後期高齢者である。逆に、「生産年齢人口」と呼ばれる15歳から64歳までの人たちは、50年前には約7割だったが、2020年時点で6割に減り、徐々に薄くなっている。社会の中で、高齢者のボリュームと期待される役割は増しており、様々な場面でデザインの修正が必要になっているはずだが、医療介護以外の領域においては、理解も対応も追いついていないように思う。

効率より安全の価値が高くなる

もちろん、一口に「高齢者」と言っても、健康状態や経済状況等は十人十色だが、仕事をリタイアし、運動機能が低下しつつある人にとっては、スピードが速くて効率的であることよりも、安全で、安心できることの価値が高まる。現役世代の頃からは、時間軸が変化してくるのだ。これは、乳幼児を連れた家族連れや、車いすで生活する障がい者等にも言えることだろう。しかし社会のデザインは、まだまだ「高速」「効率」「大容量」がキーワードであり、現役世代の健康な人が基準になっているようである。

例えば道路は、「高速」「効率」「大容量」が具現化された代表的な設備と言えるだろう。モータリゼーションに合わせて全国に整備され、経済性と効率性が追求されてきた。高齢者や赤ちゃんを乗せているドライバー、初心者等がゆっくり運転したいと思っても、交通の流れを乱して渋滞を起こすことは迷惑だとみなされる。四つ葉マークや若葉マークという標識はあっても、後続車に先を譲るためのレーンは、山道の登坂車線を除けば、ほぼ設けられていない。お年寄りや幼児がたくさん歩いている生活道路でも、幹線道路への抜け道として、制限速度を超えて走る自動車は多い。横断歩道の青信号の時間が十分ではないために、赤信号になってもまだ車道の真ん中にいる高齢者の姿もよく見かけられる3。属性によって時間軸が異なるという道路ユーザーの事情よりも、インフラとしての経済性と効率性が優先されている4。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮、東岸沖に向けて飛翔体発射=韓国軍

ワールド

トランプ氏、イラン攻撃「2週間停止で合意」 「文明

ビジネス

経常収支、2月は3兆9327億円の黒字 市場予想上

ワールド

情報BOX:イランによるホルムズ海峡通航料徴収は可
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライナ軍司令官 ロシア軍「⁠春の​攻勢」は継続
  • 3
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命防衛隊と消耗戦に
  • 4
    米軍が兵器を太平洋から中東に大移動、対中抑止に空白
  • 5
    「王はいらない」800万人デモ トランプ政権への怒り…
  • 6
    「高市しぐさ」の問題は「媚び」だけか?...異形の「…
  • 7
    【後編】BTS再始動、3年9カ月の沈黙を経て──変わる音…
  • 8
    5日間の寝たきりで髪が...ICUに入院した女性を襲っ…
  • 9
    人口減の自治体を救う「小さな浄水場」──誰もが常に…
  • 10
    「人間の本性」を見た裁判官が語った、自らの「毒親…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始めた限界
  • 3
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐせ・ワースト1
  • 4
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 5
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 6
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 7
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 8
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 9
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 10
    米軍が兵器を太平洋から中東に大移動、対中抑止に空白
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 4
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 5
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 6
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中