最新記事

感染症対策

スイス、変異種めぐり英国人スキー客に自己隔離要請 混乱したドタバタ劇

2021年1月5日(火)19時30分
岩澤里美(スイス在住ジャーナリスト)

自己隔離に温情があった?

ベルビエに関しては、一夜にして約200人が行方をくらましたと多くの媒体が報じた。ベルビエ当局は、その報道に反論するかのように、クリスマス前の時点で自己隔離の義務があったイギリスからの観光客は420人で、ただちに(一夜に)去ったのは50人だと主張する。

残りの370人のうち、12月27日の時点でベルビエにいたのは10人ほどだったことから、一夜にかどうかはわからないが短期間に多数がいなくなったのは確かだ。行方をくらました人の中には自己隔離が終了した人もいたと報じられている。

スイス当局はスイスにいた2カ国からの観光客に、自己隔離措置についてSMSで連絡した。新年最初の日曜新聞ゾンターグスツァイトゥングによると、そこには「遅くとも21日24時までに自己隔離を始める必要がある」と書かれていたといい、同紙の取材に対し、政府担当者はルールが決まってすぐに発効になったため、隔離開始までに多少の余裕を与えなくてはならなかったと話している。

同紙はまた、ベルビエの複数のホテルにおいて、宿泊していたイギリス人たちが、在スイス英国大使館から21日中にスイスを出国するようアドバイスがあったと話していたと伝えている。大使館側は同紙に対し、自己隔離に入らなくてはならないと明確に指示したと言っている。

スイスは24日から、イギリスと南アフリカへの帰国者のために航空便を用意した。その告知には、現在、自己隔離中の人は特別に保護する、つまり、感染リスクを最小限に抑えるため連邦と各州が空港まで送るサービスを用意して他人との接触を避けるとある。当局には確かめていないが、隔離中の人も飛行機に乗ってよかったのだったら、ヨーロッパの多くの人が1年で最も大切にしているクリスマスを帰国して過ごしてもらおうと配慮したように思える。

電車で去ったイギリス人も

措置発表後、イギリス人たちの様子はどうだったのだろう。スイスを発った人の声が公になっている。英紙インディペンデントには、自己隔離が始まる前に去ったイギリス人の様子が描かれている。ヴァレー州に近いスキーリゾート地に家を持ち、年に3、4回滞在するという元外交官のアンディ・ウィグモア氏が、21日にスイスを発ち23日にイギリスに到着した自身と家族の「逃走劇」について語っている。

氏は、妻と2人の子どもとスイスに数日前に来たばかりの時点で、10日間の自己隔離措置が22日0時から始まると知らされた。スイス人の友人から隔離開始前にスイスから出国したらとアドバイスをもらい、電車でイギリスに戻ることを即決。スイスからパリへ行き、パリから英仏海峡トンネルを走る鉄道ユーロスターでロンドンに到着した。

ウィグモア氏は「私たちは何も悪いことをしていません」と同紙に語っている。彼と家族がスイス入りしたときは何の規制もなかったし、旅行の前後にイギリスで検査をして全員陰性の結果だったし、措置が開始する前にスイスを離れたからだ。ウィグモア氏は英大衆紙デイリー・メールの取材も受けている。帰路の間、スイス当局からいまどこにいるかと4、5回連絡を受け、氏はイギリスに戻ってから報告したという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

G7、ロシアに圧力強化必要 中東衝突は交渉で解決を

ビジネス

ユーロ高大きく懸念せず、インフレ下振れリスク限定的

ワールド

米ミネソタ州議員銃撃、容疑者逮捕 標的リストに知事

ビジネス

再送(11日配信記事)豪カンタス、LCCのジェット
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 7
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中