最新記事

感染症対策

スイス、変異種めぐり英国人スキー客に自己隔離要請 混乱したドタバタ劇

2021年1月5日(火)19時30分
岩澤里美(スイス在住ジャーナリスト)

また、ひやひやしながら逃げた家族もいる。3人の10代の子ども連れの家族は、12月20日にイギリスを発ち、スイスに着いて間もなくして自己隔離の知らせを受けた。いったんは仕方がないと食料を買い込んで隔離を始めたもののどう考えても無理だと感じ、25日にホテルを発つことにした。警察が取り締まっていたが、ホテルのスタッフに頼んで駅まで連れて行ってもらったという。家族全員でマスクをし、イギリス人だと悟られないようひと言も話さなかった。父親はスキーには目がないとはいえ罰金を請求されたらと思うと怖く、しばらくスイス旅行はしないそうだ(スイスの大衆紙ブリック)。

残って自己隔離したイギリス人も

一方、しっかり10日間自己隔離した人もいる。20代のイギリス人男性は、滞在していたベルビエのホテルから自己隔離の知らせを受け、28日までのホテルでの隔離に従った。男性は、再び都市封鎖を実施したロンドンを離れてひと休みしようと、現在も2度目の都市封鎖をしていないスイスに初めてスキー休暇に来た。

旅程が変わるリスクがあるのは承知していた。イギリスに予定より早く帰国することになるか、もしくはスイスにいることを強いられて、でもスキーはできると考えていたという。国籍を理由に自己隔離させられるとは思ってもいなかったそうだ。父親にはリスクを冒した結果だと言われ、もちろんその通りだと思うし、変異種に関するスイスの対策は当然だとは思いつつ、不公平感はあると話した。滞在延長の費用は自腹となった。

措置が差別的だったと感じた人はほかにもいる。観光キャンペーンでスイス旅行を勧められたというイギリス人グループは、ツェルマットの5つ星ホテルに泊まり、スキーを数日楽しんだときにSMSで知らせを受け、自己隔離となった。せっかくの休暇を台無しにされたうえ、隔離が終わってチェックアウトしたときにまだ部屋にいるようにとレセプションのスタッフに怒鳴られ、侮辱されたと感じたそうだ(前出ブリック)。

イギリス人は、ベルビエを含むヴァレー州のスキーリゾート地にとっては嬉しいお得意様だ。セカンドハウスをもっていたり、数カ月アパートを借りる人もいる。子どもを連れてきて、滞在中インターナショナルスクールに通わせる人もいるという。日刊紙ターゲス・アンツァイガーは、12月の初め、ベルビエには11月からすでにフランス人とイギリス人観光客が目立っていたと報じていた。

観光地としてはやはり客を迎え入れたいが、感染予防措置がいつ強化されるかは予想できない。まだしばらくは、日本のGo To トラベル事業のように、何かあったら混乱を招くのは避けられないだろう。


s-iwasawa01.jpg[執筆者]
岩澤里美
スイス在住ジャーナリスト。上智大学で修士号取得(教育学)後、教育・心理系雑誌の編集に携わる。イギリスの大学院博士課程留学を経て2001年よりチューリヒ(ドイツ語圏)へ。共同通信の通信員として従事したのち、フリーランスで執筆を開始。スイスを中心にヨーロッパ各地での取材も続けている。得意分野は社会現象、ユニークな新ビジネス、文化で、執筆多数。数々のニュース系サイトほか、JAL国際線ファーストクラス機内誌『AGORA』、季刊『環境ビジネス』など雑誌にも寄稿。東京都認定のNPO 法人「在外ジャーナリスト協会(Global Press)」監事として、世界に住む日本人フリーランスジャーナリスト・ライターを支援している。www.satomi-iwasawa.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

マスク氏のチャットボット、反ユダヤ主義的との苦情受

ワールド

ロイターネクスト:シンガポール、中国・米国・欧州と

ビジネス

日経平均は続伸、円安が支え 指数の方向感は乏しい

ビジネス

イオンが決算発表を31日に延期、イオンFSのベトナ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    「ヒラリーに似すぎ」なトランプ像...ディズニー・ワ…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 7
    自由都市・香港から抗議の声が消えた...入港した中国…
  • 8
    人種から体型、言語まで...実は『ハリー・ポッター』…
  • 9
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 10
    「けしからん」の応酬が参政党躍進の主因に? 既成…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 5
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 6
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 7
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 8
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 7
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中