最新記事

米中対立

米中衝突が生むアジアの新たなパワーバランス

US-China Geopolitical Battle for Asia Shapes New Power Dynamic for Region

2020年10月26日(月)17時57分
トム・オコナー、ナビード・ジャマリ

ルメイユによれば、クアッドの連携強化も4カ国の評価(特に防衛ネットワークに関して)の材料にしたという。ちなみにアメリカを除く3カ国の防衛ネットワークのスコアは上昇した。

「オーストラリア、それに私の思うにインドや日本をクアッド強化に走らせた緊急性は非常に大きいものだ」と彼は本誌に語った。「それは中国を脅威として認識しているからに他ならない」

マーク・エスパー米国防長官は先ごろ、シンクタンクの大西洋委員会への発言で、「中国の侵犯行為に対抗する」手段としての地域の同盟国やパートナー諸国への軍事的支援強化を進める姿勢を示した。

米国防総省が新たに掲げた10の目標には、「中国に注力する」ことや「主要な戦争計画の刷新」、「現実に即した合同軍事演習、演習、訓練の計画を立てるとともに、最終的にはドクトリンとなるような現代的な合同戦闘コンセプトを立案する」ことなどが含まれた。

これに対し中国外務省の趙立堅(チャオ・リーチエン)報道官は本誌に対し、駐ワシントン中国大使館を通じて以下のような反応を伝えてきた。

「これまでも言ってきた通り、中国が他の国に盾突いたり取って代わろうと意図したことはない。われわれにとって最大の関心事は国民の生活向上であり、最も大切に思っているのは中国という国の刷新を実現することであり、最も強く望んでいるのは世界の平和と安定だ」

趙は、アメリカが意図的に中国との確執を作り出していると非難し、そしてその戦略は失敗する運命にある、と語った。

「中国を競争相手にしようとするアメリカの試みは、戦略的資源の配分を誤る重大な戦略的誤算だ」と、趙は述べた。「米中両国の相互信頼と協力関係を築く役には立たないし、地域および世界の平和と安定を守る助けにもならない」

対照的に、中国の対米政策は「非常に安定しており、一貫している」と趙は言う。そして、一部のアメリカの政治家に対して、「時代遅れの冷戦時代の思考とゼロサム的なものの考え方を退け、中国や米中関係、中ロ関係を客観的かつ合理的な観点で見るようにしてほしいし、米中関係を連携、協力、安定性を主眼とする正しい軌道に戻すように中国と協力してほしい」と語った。

アメリカ政府は、中国政府に対してかなり遠慮がないやり方をとってきたかもしれないが、趙が「中国国家の再生」とみなす行動に批判を表明する国々はますます増えている。

インドネシア、マレーシア、フィリピン、ベトナムなど東南アジア諸国連合(ASEAN)の国々は、南シナ海全域での中国の行動に抗議している。

米海軍の強化は必要

中国に対抗するために、米軍は紛争地域、特に南シナ海で実施する「航行の自由」作戦の回数を増やしている。国防総省の報道官が本誌に語ったところでは、今年の1月から8月にかけて、「度重なる過剰な海洋権益の主張に挑戦して」アメリカは同地域で7つの作戦を実施した。

紛争の対象となっている島々に関するこのような主張について、報道官は「中国は国際法で認められる権利よりも広い範囲で領海や排他的経済水域、大陸棚の権利を主張しようとしている」と語った。

アメリカ政界にはかねてから、中国がいずれ海上貿易を支配するのではないかと疑心暗鬼になっている人々がいるが、中国の海軍力強化はこうした疑惑を証拠立てる根拠となる。アメリカの海軍の強化を支持する全国的な組織、米国海軍連盟などのグループはこうした懸念を表明している。

「海軍力で世界の強国をめざす中国に対抗する米海軍強化の必要性」と題された海軍連盟の最新の報告書は、そのような未来を警告する。

「中国は過去20年の間に、世界の中核的な海洋産業、すなわち造船業を独占し、大洋を航行する商業船の過半数の所有権、戦略的に重要な貿易経路に位置する主な港における海上ターミナルの所有権または一部所有権を支配するようになった」と、報告書は述べている。

もし戦争が勃発したら、悲惨な結果になる恐れがある、と海軍連盟は警告した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・サウジ、安全保障協定で近く合意か イスラエル関

ワールド

フィリピン船や乗組員に被害及ぼす行動は「無責任」、

ワールド

米大学の反戦デモ、強制排除続く UCLAで200人

ビジネス

仏ソジェン、第1四半期は減益も予想上回る 投資銀行
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中