コラム

米中新冷戦でアメリカに勝ち目はない

2020年09月08日(火)11時20分

東西冷戦時のソ連圏より中国ははるかに巨大だ Dilok Klaisataporn-iStock.

<ハイテク企業いじめのような戦略なき輸出管理では自分が傷つくだけだ>

2018年7月に始まったアメリカと中国の貿易戦争は、今年1月に「第1段階の合意」がなされて、中国がアメリカから2年間で輸入を2000億ドル増やすことに同意したことで、とりあえず一段落したように見えた。

ところが今年5月ぐらいからスマホ・通信機器メーカーのファーウェイをはじめとする中国のハイテク企業に対するアメリカの攻撃が苛烈を極めてきた。中国の経済的な切り離し(デカップリング)がにわかに現実味を帯び、日本企業が「アメリカを選ぶのか、中国を選ぶのか」と態度決定を迫られる日が刻一刻と近づいてきているようにも見える。

今後、アメリカと中国は新たな冷戦へ突入し、世界経済はブロック化していくのであろうか。筆者はその可能性は小さくないと思うが、アメリカが冷静さを取り戻すことができれば、アメリカの側から新冷戦へ向かっていく動きには歯止めがかかるはずだと考える。なぜならアメリカがこの新冷戦に勝利できる可能性は、かつての東西冷戦の時に比べて格段に小さいからだ。

工場の操業が止まったZTE

そう考える理由を説明する前に、2018年以来のアメリカの中国ハイテク企業に対する攻撃の経過を振り返っておこう。

まず2018年4月に、中国の通信機器大手、中興通訊(ZTE)がアメリカ製品を組み込んだ通信機器をアメリカの法律に違反してイランに輸出する罪を犯したとして、アメリカからZTEに対する部品やソフトウェアの輸出を7年間禁じる処分を下された。ZTEは2016年3月に同じ問題で同じ処分を下されていたのだが、その1年後に8.9億ドルの罰金支払い、4人の幹部の解雇、35人の従業員に対するボーナス削減を行うことでアメリカ政府と和解していた。ところが、35人の従業員に対するボーナス削減をやっていないとしてアメリカ政府は2018年4月に禁輸を断行したのである。

ZTEはスマホの主要部品が入手できなくなり、工場の操業停止を余儀なくされる危機に陥った。中国の劉鶴副首相が間に入って減刑を求めた結果、2018年7月に14億ドルの罰金支払と引き換えに禁輸措置が解除された。

一方、アメリカ下院は2012年にZTEとファーウェイの通信機器を通じて通信内容が中国に傍受されるリスクがあるのでアメリカ政府が補助金を出している通信インフラから排除するとともに、この2社によるアメリカ企業の買収は拒否すべきだとの報告書を出した。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が

ビジネス

NY外為市場=ドル対ユーロで軟調、円は参院選が重し
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 6
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 7
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 8
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story