コラム

米中新冷戦でアメリカに勝ち目はない

2020年09月08日(火)11時20分

その提言を受けて、2019年11月に連邦通信委員会(FCC)は通信のユニバーサルサービス実現のための政府補助金を受けている通信ネットワークでファーウェイとZTEの機器を使うことを禁じた。さらに2020年6月にはこの2社をアメリカの「安全保障上の脅威」と断定し、アメリカの通信網から追放する政策を確定した。

また、2018年8月にトランプ大統領は「2019年国防権限法」に署名し、これによってファーウェイ、ZTE、およびハイテラ(トランシーバーのメーカー)、ハイクビジョン(監視カメラのメーカー)、ダーファ(監視カメラのメーカー)の製品を政府機関で調達することが禁じられた。その1年後には、この5社の製品を重要な部品として、あるいは重要な技術として含むシステムを購入することも禁じられ、2020年8月にはこの5社の製品を使っている企業もアメリカの政府調達から排除するとした。つまり、日本企業だろうが何だろうが、例えば社内の監視システムでハイクビジョンのカメラを使っていたり、社内の通信システムでファーウェイの基地局を使っていたらダメであり、アメリカ政府関係に何かを売りたいのであれば、この5社の製品を使っていないことを証明しなければならないのだという。

イラン制裁逃れへの制裁

一方、2019年5月に、ZTEと同じく、ファーウェイがアメリカ製品を組み込んだ製品を許可を得ずにイランに輸出したとして関連会社68社とともに輸出管理規則に基づく「エンティティー・リスト」に加えられた。これにより、ファーウェイはアメリカ企業から部品やソフトを購入できなくなった。

ところが、ファーウェイはZTEと違って苦境に陥るどころか2019年に売上を前年より19.1%、純利益を5.6%伸ばす強靭さを示した。ファーウェイにとって、もちろんクアルコムのベースバンドICやグーグルのアプリが使えなくなることは痛手だったが、以前からこうした状況を予期して準備をしてきたのである。すなわち、ベースバンドICについては子会社のハイシリコンで設計し、台湾のTSMCに生産を委託して調達したし、アプリについてはヨーロッパなどのソフトウェア企業と組んでHuawei Mobile Service (HMS)という独自の生態系を作った。

ファーウェイがZTEと違って音を上げるどころか、スマホの世界シェアでサムスンを抜いて世界一になろうとしていることにアメリカ政府はいら立ちを強め、今年5月に「外国製造の直接生産物(foreign-produced direct product)」なる奇怪な言葉を編み出して、要するにTSMCによるハイシリコンのICの受託生産をやめさせようとした。TSMCはアメリカの半導体製造装置を使っているからアメリカ政府の言うことを聞かなきゃならないのだ、というかなり強引な理屈である。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米ADP民間雇用、8月は5.4万人増 予想下回る

ビジネス

米の雇用主提供医療保険料、来年6─7%上昇か=マー

ワールド

ウクライナ支援の有志国会合開催、安全の保証を協議

ワールド

中朝首脳が会談、戦略的な意思疎通を強化
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...地球への衝突確率は? 監視と対策は十分か?
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害…
  • 5
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 6
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「農産物の輸出額」が多い「…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 5
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 6
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story