最新記事

中国

中国のネットから消された「千人計画」と日本学術会議研究者たち

2020年10月19日(月)13時09分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

中国の国旗,五星紅旗 Fabrizio Bensch-Reuters

ある日突然、中国のネットから「千人計画」という言葉が完全に消された。その経緯をリアルタイムで経験しているので、背景を考察すると共に、消されていない日本学術会議研究者に関して2、3例ほど考察を試みる。

「千人計画」が中国のネットから消えたリアルな体験

まず、なぜ、そしていつ、中国のネットから「千人計画」という言葉が突如、完全に消えたのか、その顛末をお話ししたい。

最初に検索しにくくなったのは2018年9月頃である。

そのとき私は中国のハイテク国家戦略を明らかにすべく『「中国製造2025」の衝撃  習近平はいま何を目論んでいるのか』を書いている真っ最中だった。当然、人材に関して書かなければ、どのようにしてハイテク国家戦略を推進しているのかが見えてこない。

当然のことながら「千人計画」に関して詳細に追跡することになった。

中国のネット空間における資料が実に豊富だったので、正確に追いかけることができ、執念のように整合性を求めて論理構築に専念していた。

ところが、どうしたことか――。

それは正に2018年9月のことだった。

突如、「千人計画」を中国のネット空間で中国語簡体字を用いて検索しようとすると見当たらなくなってきた。自分のパソコンがおかしくなったのかもしれないと、パソコンの「修繕」を試みたりしていたところ、「千人青年プロジェクト審査小組(グループ)」の名において「(募集やプロジェクトの成果を発表する場合など)文字で通知する時には"千人"という文字を使わないように」という通達があるのを発見した。

しかしその通達は一瞬で消えた。

幻を見ているのか、それともやはり私のパソコンの機能が、使い過ぎでおかしくなったのかもしれないと横目で見ながら、「中国製造2025」の他の重要事項に関して執筆を進めていた。

というのは、その時点で既に「千人計画」に関しては書き終わっていたし、次に「万人計画」に入ったので、「千人」と言わなくなったのだろうと頭の一部で情報処理をして、同年11月には本の原稿を書き終え、年末に出版された(本の奥付では2019年1月11日となっているが、実際には2018年12月末には本屋に並んでいた)。

背後には連邦捜査局FBIの捜査

まるで幻覚のような現象の原因は、2019年になって明確になってきた。

アメリカ司法局管轄の連邦捜査局FBIが「千人計画」研究者を重点的捜査の対象としていて、そのリストを作成している情報を中国がつかみ、「千人計画参加者を逮捕投獄の対象としている恐れがある」と、中国側が警戒しているという情報をつかんだのだった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ債の域外投資家純購入額、6月は598億ユーロ

ビジネス

6月の機械受注(船舶・電力を除く民需)は前月比3%

ビジネス

7月貿易収支は1175億円の赤字=財務省(ロイター

ワールド

EXCLUSIVE-米政権がTikTokアカウント
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 2
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 3
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家のプールを占拠する「巨大な黒いシルエット」にネット戦慄
  • 4
    【クイズ】2028年に完成予定...「世界で最も高いビル…
  • 5
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 6
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 7
    広大な駐車場が一面、墓場に...ヨーロッパの山火事、…
  • 8
    【クイズ】沖縄にも生息、人を襲うことも...「最恐の…
  • 9
    時速600キロ、中国の超高速リニアが直面する課題「ト…
  • 10
    「吐きそうになった...」高速列車で前席のカップルが…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 4
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 5
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 6
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 7
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 8
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 9
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 10
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中