最新記事

環境

経済成長を諦めなくても温暖化対策は進められる

Growth Can Be Green

2020年4月25日(土)17時45分
アンドリュー・マカフィー(マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院首席研究員)

まず、資源の枯渇について。何であれ、物が足りなくなればその価格は上がる。これは常識だ。しかし燃料や鉱石、食物といった主要資源は例外なく、世界中の平均的労働者にとって以前よりも手に入りやすくなっている。

グローバル化の影響を研究しているマリアン・タピーとゲイル・プーレイは、そんな仮想の平均的労働者が買える50種類の生活必需資源(原油やコーヒー豆、綿花など)の量を試算してみた。すると、1980年には1時間分の労働が必要だった量を、2018年にはわずか20分余りの労働で買えることが分かった。「同じ労働時間で買える量」という尺度で見る限り、高くなった資源は1つもなかったという。

なぜか。理由の1つは、かつての想定よりも実際の資源量が多かったからだ。72年の『成長の限界』には主要な天然資源について、当時の確認済み埋蔵量と、それが枯渇する時期をさまざまなシナリオの下で計算したデータがある。同書の試算によれば、72年当時のような高度成長が続いた場合は29年以内に金の資源が枯渇するはずだった。銀は42年以内、銅と石油は50年以内、アルミニウムは55年以内とされていた。

この予測は外れた。金も銀もまだ十分にある。現在の確認済み埋蔵量は金が72年当時の5倍、銀も3倍以上となっている。銅やアルミニウム、石油などの確認済み埋蔵量も当時より多い。この半世紀近く、大量に消費してきたのにだ。

maggreen02.jpg

アメリカでは電力会社が二酸化炭素排出量を大幅カット(ウェストバージニア州の石炭火力発電所) MICHAEL S. WILLIAMSONーTHE WASHINGTON POST/GETTY IMAGES

競争原理で進む「脱物質化」

もう1つ、先進諸国の多くが天然資源の消費量を年々減らしているという事情もある。世界のGDPの約25%を占めるアメリカでは、銅や紙、農業用水、木材、窒素(重要な肥料の原料だ)、農地といった資源の年間消費量が減少傾向にある。07年から今日までに経済は20%ほど成長したが、アメリカの総エネルギー使用量はほとんど増えていない。

急成長中のインドや中国を含む途上国はまだ、資源離れをしていない。だが筆者の見るところ、これらの諸国もそう遠くない将来に、先進諸国と同様、少なくとも一部の資源の消費量を減らし始める。

詳しくは筆者の著書『モア・フロム・レス』を見てほしいが、経済の「脱物質化」は2つの力が組み合わされると加速される。1つは技術の進歩、とりわけアナログからデジタルへの流れだ(今日の液晶ディスプレイは以前のブラウン管式モニターよりもずっと軽くて高性能だ)。

もう1つは資本主義、つまり競争原理だ。競争があるから企業には資源節約(=利益増大)の強烈なインセンティブが生まれ、技術の進歩がそれを実現する機会を提供する。だから内燃機関(エンジン)はどんどん軽くなり、燃費効率がよくなり、強力になってきた。昔は何台もの機械が必要だった作業も、今はスマートフォン1台で済む。これが経済の「脱物質化」の現実だ。

地球の資源に限りがあるのは事実だ。しかし私たちの使う量、使える量に比べたらずっと多い。70年のアースデイ以降に私たちが経験したことは、地球が十分に大きく、人間が必要とする資源を提供できることを示している。つまり、成長が地球を食いつぶす心配はない。しかし地球を汚してしまうリスクはある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

スーパーのコメ価格、18週ぶり値下がり 5キロ42

ワールド

米国に対する世界の評価が低下、中国下回る 「米国第

ワールド

英インフレ弱まる兆しあるが依然注意必要=ロンバルデ

ワールド

米中、関税率を115%引き下げ スイスの閣僚級協議
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王子との微笑ましい瞬間が拡散
  • 3
    「隠れ糖分」による「うつ」に要注意...男性が女性よりも気を付けなくてはならない理由とは?
  • 4
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 5
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 6
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 7
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 8
    ロシア艦船用レーダーシステム「ザスロン」に、ウク…
  • 9
    「股間に顔」BLACKPINKリサ、ノーパンツルックで妖艶…
  • 10
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 3
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 4
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 5
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 6
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 7
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 8
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 9
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中