最新記事

感染症

HIVとの関連説、宇宙から来た病原体... 早い者勝ちの研究報告が新型ウイルスのリスクを広げる

2020年2月25日(火)16時00分

2月19日、エイズウイルス(HIV)との関連説、ヘビから人に感染したという説、はては宇宙から来た病原体説――。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、関連する科学研究論文も前代未聞のスピードで投稿され、拡散、流布している。写真はコンピューターで作成された新型コロナウイルスのイメージ。 NEXU Science Communication提供(2020年 ロイター)

エイズウイルス(HIV)との関連説、ヘビから人に感染したという説、はては宇宙から来た病原体説――。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、関連する科学研究論文も前代未聞のスピードで投稿され、拡散、流布している。ただ、その中身は玉石混交だ。

迅速な科学分析は、良い内容であれば非常に役立つが、欠陥のある内容、誤解を招く論文はパニックを招き、誤った政策対応や危険な行動につながるため、感染拡大に拍車が掛かりねない。

ロイターの分析によると、感染拡大が始まって以来、新型コロナウイルスによる肺炎に関する疫学論文、遺伝子分析、臨床報告を含む153の研究報告が投稿、あるいは公表された。これらに関わった世界の研究者の数は675人。

2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)感染拡大では、この半分の数の研究報告が公表されるのに1年以上を要した。

医学誌ランセットのリチャード・ホートン編集主幹は、自分のグループだけでも1日当たり30本から40本の科学研究報告が寄せられるため、スタッフを増やして臨時態勢を敷いていると話す。

こうした報告書をチェックしている専門家らによると、その多くは厳密な分析に基づく有用な内容だ。しかし、その多くは荒削り。同僚の専門家同士によって、学術雑誌に投稿する前に行われる「査読」を経ていない「出来たて」段階の研究結果が投稿されることがほとんどなため、一部は科学的な厳密さを欠く。中には、欠陥を含んでいたり、まったくの間違いであることが分かって、すでに撤回されたりした論文もある。

英非営利団体サイエンス・メディア・センターのトム・シェルドン氏は「早期に研究結果が出ても、欠陥があったり偽物だったりすれば、人々の役に立たない」と言う。

査読前の原稿

シェルドン氏によると、新型コロナウイルス感染拡大の脅威を考えれば、情報は「同僚の専門家による、いわゆる査読に縛られず」、迅速かつ自由に共有される必要がある。しかし、それが問題を引き起こしているという。

現在は感染が急拡大しているだけに、外部のチェックや精査や検証がされていない研究結果「プレプリント(査読前原稿)」のオンライン投稿が積極的に行われている。

ロイターは学術論文などの検索サイト「グーグル・スカラー」のほか、プレプリントのサーバーである「bioRxiv」、「medRxic」、「ChemRxiv」上の資料を調べ、分析した。新型コロナウイルス関連と特定された報告書153本のうち、約60%がプレプリントだった。

プレプリントの執筆者は、科学的な議論に貢献し、協力態勢を育むことができる一方、ほぼ即時に世界のメディアや大衆の注目を集めることもある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米政権がロス市提訴、ICE業務執行への協力制限策に

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダック最高値更新、貿易交

ワールド

G7外相、イスラエル・イラン停戦支持 核合意再交渉

ワールド

マスク氏、トランプ氏の歳出法案を再度非難 「新政党
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引き…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 9
    飛行機のトイレに入った女性に、乗客みんなが「一斉…
  • 10
    顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中