最新記事

感染症

HIVとの関連説、宇宙から来た病原体... 早い者勝ちの研究報告が新型ウイルスのリスクを広げる

2020年2月25日(火)16時00分

ランセットのホートン氏は、一部の報告書は明らかに事態を悪化させていると指摘。「フェイクニュースかデマか、うわさの拡散と言うべきか、いずれにせよ恐怖とパニックを引き起こしているのは間違いない」と話した。

bioRxivは現在、新型コロナウイルスに関する研究報告全てについて、冒頭に黄色の警告バナーを挿入した。「注意:これらは査読されていない暫定的な報告です。最終結論、あるいは臨床診療や健康に関する行動の指針と見なしてはならず、ニュースメディアは確認済みの情報として報道すべきではありません」

例えば、インド・ニューデリーの科学者らは1月31日、新型コロナウイルスとHIVが「不気味なほど」似ているとする研究結果を投稿した。世界中の科学者から批判を浴びて速やかに撤回されたが、既に1万7000件以上のツイートに引用され、25のニュースメディアが取り上げていた。

また、英国で働くある研究者はランセット誌に対し、新型コロナウイルスの発生源は宇宙から来たウィルスかもしれない、との報告書を提出した。

1月22日に別の医学誌にオンラインで掲載された報告書は、中国での肺炎拡大は一種の「ヘビインフルエンザ」かもしれない、とのうわさを広げることになった。「ヘビ論文」と呼ばれることになったこの報告書に対し、主要な遺伝子専門家らが、すぐに疑問を呈したが、すでにうわさは拡散済みだった。

プレッシャー

 

問題の一端は、プレッシャーにある。科学研究の世界では、最初に研究結果を出すと経歴に箔(はく)が付き、将来の資金調達も有利になる。世界的に急拡大する疾病に関する研究であれば、なおさらだ。

インペリアル・カレッジ・ロンドンの感染病専門家、エフスタシオス・ジオティス氏は「(新型コロナウイルスの)感染拡大は現在進行中であるため、リアルタイムで研究結果を共有しなければ、とのプレッシャーにさらされている科学者が多い」と話した。

(Kate Kelland記者)

[ロンドン ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

【関連記事】
・「マスクは今週1億枚を供給、来月には月産6億枚体制へ」=菅官房長官
・新型ウイルス世界各地で感染広がる WHO「封じ込め逸すれば深刻な問題に」 
・感染者2200万人・死者1万人以上 アメリカ、爆発的「インフル猛威」のなぜ


20200303issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年3月3日号(2月26日発売)は「AI時代の英語学習」特集。自動翻訳(機械翻訳)はどこまで使えるのか? AI翻訳・通訳を使いこなすのに必要な英語力とは? ロッシェル・カップによる、AIも間違える「交渉英語」文例集も収録。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

和平案巡り協議継続とゼレンスキー氏、「ウクライナを

ワールド

中国、与那国のミサイル配備計画を非難 「大惨事に導

ワールド

韓国外為当局と年金基金、通貨安定と運用向上の両立目

ワールド

香港長官、中国の対日政策を支持 状況注視し適切に対
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナゾ仕様」...「ここじゃできない!」
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 5
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】いま注目のフィンテック企業、ソーファイ・…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 10
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中