最新記事

韓国

韓国で日本ボイコットに反旗? 日本文化めぐり分断国家の世論割れる

2019年8月10日(土)21時00分
ウォリックあずみ(映画配給コーディネーター)


『映画ドラえもん のび太の月面探査記』の公開延期を伝える韓国メディア。YTN news / YouTube

映画界では日本映画自粛の動き

そして筆者が個人的に恐れていた映画界にまでその影響が出始めた。8月14日に韓国で公開予定だった『映画ドラえもん のび太の月面探査記』の配給会社は「国民感情を考慮し、公開を無期限延期した」と発表した。現在も「年内に公開」という記載はあるものの、いつになるかなどの情報はない。またドラえもんよりもひと足先に公開された劇場版『名探偵コナン 紺青の拳』は、8月9日の時点で観客動員数が21万8千人という結果となってしまった。

2016年公開された『名探偵コナン 純黒の悪夢』は約52万人。2017年公開の『名探偵コナン から紅の恋歌』45万人、去年公開の『名探偵コナン ゼロの執行人』42万人という動員累計数を見ても、今年の客足の落ち込みは明らかである。韓国でも人気の高いアニメシリーズ2作の劇場版だけに、ここまで影響が出てしまうと日本映画を扱っている映画輸入会社は驚きを隠せない様子だ。

また、8月29日から開催される「忠淸北道国際武芸アクション映画祭」では、元々日本映画『座頭市』をモチーフにしていた公式ポスターを急きょ差し替え、映画祭期間中に行われるはずだった「座頭市オリジナルセクション」の上映中止を発表した。

そして映画コンテンツの2次版権への影響をみると、公営放送局EBSは、7月27日オンエアの「世界の名画」で、日本映画『万引き家族』を放送予定だったが、直前でイタリア映画『夕陽のガンマン』(1965年)に差し替えた。映画輸入会社は、劇場での売り上げだけではなく、そのあと展開される2次版権も見越して映画を購入する。放送局に放送権を売り、配信コンテンツ会社とインターネットやVODの版権を取り引きすることで利益を上げる作品もある。だからこそ、何百万人も動員できるハリウッドの派手な超大作とは反対の、公開規模は小さくても素晴らしい作品を買い付けて公開することができるのである。

映画『万引き家族』の是枝裕和監督は、韓国でも人気が高い日本人監督のひとり。しかもカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した話題作である。そんな作品ですら放送を取りやめるような状況になってしまったら、今後韓国の放送局は日本映画の放送権購入を渋りだしかねない。そうすると、韓国の映画買い付けバイヤーは日本映画の購入から足が遠のいてしまうのは確実だ。

「政治と芸術は関係ない」と日本映画上映する映画祭も

イ・サンチョン堤川市長のフェイスブックページより。日本製品のボイコット行動を理解するとしつつ、映画祭では純粋な芸術作品としての日本映画を上映すると伝えた。

このような悲観的なニュースが目立つ一方で、日韓関係に前向きな決断をした映画祭も現れた。8月8日から開催されている「堤川国際音楽映画祭」だ。今年で15回目になる堤川国際音楽映画祭は、今年上映される127本の映画のうち7本が日本映画(アメリカ/フランスなどとの合作含む)だった。上映プログラムが発表されたのは、日韓関係がこれほど悪化する以前だったが、日韓両政府の対立が深刻になっていくにつれ堤川市議会は7本の映画の上映中止を要請。しかし、今回の映画祭組織委員長を務めるイ・サンチョン堤川市長はそれに屈せず、開催4日前の8月4日にSNSを通じて「7本のうち4本は、日本と外国との合作及び投資作品で、残りの3作も政治とは関係のない映画だ。これらの映画は政治と切り離した純粋な芸術作品である」と上映中止する考えのないことを発表。日本政府批判や日本製品のボイコットをする行動に理解を示しつつも、映画を愛する観客として映画祭への日本作品参加を認めた。

また、日中韓合作アニメ映画『あなたをずっとあいしてる』は、一時は公開が危ぶまれたが、合作であり韓国が企画・制作・投資も行ったことを強調し、8月14日に無事公開が決定した。冒頭で書いたように、奇しくも同日公開予定だった『劇場版ドラえもん のび太の月面探査記』は無期限延期という結果になってしまっただけに、『あなたをずっとあいしてる』は興行的にも成功してほしいものである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国軍、台湾包囲の大規模演習 実弾射撃や港湾封鎖訓

ワールド

和平枠組みで15年間の米安全保障を想定、ゼレンスキ

ワールド

トルコでIS戦闘員と銃撃戦、警察官3人死亡 攻撃警

ビジネス

独経済団体、半数が26年の人員削減を予想 経済危機
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 9
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 10
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中