最新記事

袋小路の英国:EU離脱3つのシナリオ

ブレグジット後の英国は「海の覇者」として復活する

Return to the Far East

2019年2月9日(土)07時20分
カーライル・セイヤー(ニューサウスウェールズ大学名誉教授)

シドニー湾に寄港する英海軍の駆逐艦デアリング(2013年) KEITH MORGAN-ROYAL NAVY

<英EU離脱後を見据えた、意外な動きがある。メイ政権の「グローバル・ブリテン」構想により、誇り高き英海軍が世界の大海原に戻ってくる>

※2019年2月12日号(2月5日発売)は「袋小路の英国:EU離脱3つのシナリオ」特集。なぜもめている? 結局どうなる? 分かりにくさばかりが増すブレグジットを超解説。暗雲漂うブレグジットの3つのシナリオとは? 最大の焦点「バックストップ」とは何か。交渉の行く末はどうなるのか。

◇ ◇ ◇

ブレグジット(イギリスのEU離脱)後のイギリスは、世界の舞台でどのような役割を果たすべきか――。テリーザ・メイ首相ら英政権の閣僚たちは、かなり前からこの問題を検討していたらしい。そして運命の国民投票の数カ月後に、メイとボリス・ジョンソン外相(当時)が示したのが「グローバル・ブリテン」構想だ。

メイは2016年10月の保守党大会で、グローバル・ブリテンとは、イギリスが「自信と自由に満ちた国」として「ヨーロッパ大陸にとどまらず、幅広い世界で経済的・外交的機会を求める」構想だと説明した。なぜなら国民投票の結果は、イギリスが「内向きになる」ことではなく、「世界で野心的かつ楽観的な新しい役割を担う」ことへの決意表明だったから、というのだ。

この「世界における新しい役割」には、英海軍がインド太平洋地域で再び活発な役割を果たすことが含まれる。例えば、キム・ダロック駐米大使は2018年、「航行の自由を守り、海路と航空路の開放を維持する」べく、空母クイーン・エリザベスがインド太平洋地域に派遣されるだろうと述べた。

同年にオーストラリアを訪問したジョンソンは、英海軍が2020年代にクイーン・エリザベスとプリンス・オブ・ウェールズの空母2隻を南シナ海に派遣すると語った。英海軍の制服組トップである第一海軍卿も、2020年代にクイーン・エリザベスを南シナ海に派遣すると語っている。

イギリスの外交政策はあまりにも長い間、ヨーロッパという狭い地域に縛られていたというのが、英政府高官らの考えだ。彼らにとってブレグジットは、イギリスが単独で世界的な役割を果たすチャンスだ。2018年末のサンデー・テレグラフ紙のインタビューで、ギャビン・ウィリアムソン国防相は次のように語っている。

「(ブレグジットによって)イギリスは再び真のグローバルプレーヤーになる。私はそこで、軍が極めて重要な役割を果たすと考えている。......わが国のリソースをどのように前方配備して抑止力を構築するか、そしてイギリスのプレゼンスを確立するかを、私は大いに検討している。このような機会は極東だけでなく、カリブ海地域にも存在すると考えている」

さらにウィリアムソンは、「今後2年以内に」、極東に軍事基地を設置する計画を明らかにしている。現時点の候補地はブルネイとシンガポールの2カ所だ(イギリスは現在、シンガポールのセンバワン海軍基地に小規模な後方支援拠点を持つ)。

【関連記事】メイ首相は「悲惨なほど交渉力なく頑固一徹」 EU離脱混迷の責任は...

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ベイリーFSB議長、G20に金融市場クラッシュの恐

ワールド

途上国の債務問題、G20へ解決働きかけ続ける=IM

ビジネス

米アマゾン、年末商戦に向け25万人雇用 過去2年と

ワールド

OPEC、26年に原油供給が需要とほぼ一致と予想=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    車道を一人「さまよう男児」、発見した運転手の「勇敢な行動」の一部始終...「ヒーロー」とネット称賛
  • 4
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 7
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 8
    1歳の息子の様子が「何かおかしい...」 母親が動画を…
  • 9
    ウィリアムとキャサリン、結婚前の「最高すぎる関係…
  • 10
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中