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免疫系を強くするウイルス発見? 医学の常識にも反する作用が判明

An Immune Boosting Virus

2018年12月28日(金)10時00分
カシュミラ・ガンダー

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従来の顕微鏡法では見逃されてきたSPF。ピンクと緑の点は免疫細胞 IMOGEN MORAN & TRI PHAN/GARVAN INSTITUTE

隠れていた微小器官が予防医療を変える

今から2500年ほど前、古代ギリシャで何度か疫病が流行した。戦場の兵士も病に侵され、多くが命を落とした。しかし運よく生き延びた者もいて、再びその疫病が猛威を振るったとき、彼らは平気だった。初めて感染した敵兵は次々と病に倒れたから、ギリシャ兵たちは容易に勝利を手に入れられたという。

兵士の体が病を記憶していたのだろうと、当時の歴史家トゥキディデスは記している。免疫に関する、人類最古の記録かもしれない。では、その病の記憶は人体のどこに保存され、どのように呼び起こされるのか。最新の研究によれば、リンパ節の外側にあるミクロの器官が重要な役割を果たしている。

ワクチンが感染症の予防に有効なのは、免疫系に含まれる「メモリーB細胞」が過去の感染履歴を覚えていて、再び似たウイルスや細菌などの病原体に遭遇したときは速やかに防御態勢を構築し、撃退するからだ。しかしメモリーB細胞の「出撃基地」がどこにあるかは不明だった。

それを突き止めたのが、ガーバン医学研究所(オーストラリア)の研究者たち。オンライン学術誌ネイチャー・コミュニケーションズに8月に発表された論文によれば、彼らは3次元顕微鏡法という最先端の撮影技術を用いて、リンパ節の外側にある被膜下増殖巣(SPF)にメモリーB細胞が集結し、急速に増殖を繰り返してプラズマ細胞(病原体と戦う抗体を生み、放出する細胞)に変身していく様子の観察に成功した。

より有効なワクチンの開発に

研究チームを率いたチ・ファン准教授に言わせれば、このSPFこそ「大量のプラズマ細胞を迅速に生成し、私たちの体を再感染から守るために必要な抗体を生み出す」前線基地だ。場所がリンパ節の外側というのも理にかなっている。

「このSPFは病原体の侵入経路に位置しており、しかも抗体の産生に必要なものが全てそろっている」と、ファンは言う。「実によくできていて、これなら迅速に感染と戦える」

SPFが今まで見つからなかったのは、それが極めて薄く、しかも免疫系が過去に遭遇したことのある病原体を察知したときにしか出現しないためだ。

「科学者たちは300年以上にわたって顕微鏡で体内組織を観察してきたが、体内にはまだまだ多くの謎が隠されている」

今回の発見は、より効果的なワクチンの開発に役立つ可能性がある。「従来のワクチン開発では、プラズマ細胞やメモリーB細胞を生み出すことばかり考えていた。しかし肝心のメモリーB細胞がどこで、どう再活性化されるかを問題にしてこなかった」と、ファンは本誌に語った。

「今回の研究によれば、SPFこそメモリーB細胞の再活性化に最適な場所だ。ここなら病原体を撃退する抗体を迅速かつ大量に生み出せる。今後のワクチン開発の方向性としては、SPF内でのメモリーB細胞の増殖を促すような設計が考えられる」

ちなみに、このSPFはマウスでも確認されている。免疫細胞のミクロの前線基地も、長年にわたる哺乳類の進化のたまものということか。

以上、アリストス・ジョージャウ
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