最新記事

医療

免疫系を強くするウイルス発見? 医学の常識にも反する作用が判明

An Immune Boosting Virus

2018年12月28日(金)10時00分
カシュミラ・ガンダー

高齢者の免疫力は意外に強いことが分かってきた bowdenimages - iStockphoto

<普通ならウイルスは、免疫系にとって天敵のはず。ところが免疫を弱めるのではなく、強化すると思われるウイルスが特定された──>

人間の免疫機能は加齢とともに弱くなり、新しい感染症と戦う力が失われることが過去の研究から示唆されている。だが高齢者の免疫系を強化する方法を探していたアリゾナ大学の研究チームは、体の抵抗力を強化しているとみられるサイトメガロウイルス(CMV)の作用を動物実験で確認した。

CMVには人類の半分以上が感染しているとされるが、治療法はなく、体内から消すことはできない。「CMVはほとんど症状を起こさないが、根治はできず、共存するしかない」と、研究の筆頭著者メーガン・スミシーは言う。「ウイルス保有者の免疫系は、常にこのウイルスと静かに戦っている」

研究者はCMVに感染したマウスと感染していないマウスを、同様にリステリア菌に感染させた。「CMV感染マウスは他の感染症にかかりやすいと考えた。CMVとの戦いで免疫系が消耗しているはずだから」とスミシー。

ところがCMV感染マウスの免疫系は、感染していないマウスより強かった。さらにCMV感染マウスは免疫系の主役ともいえる白血球のT細胞の多様性が、若いマウス並みだった。

医学の常識ではT細胞の多様性は加齢によって低減する。だが、この研究から異なる可能性が見えた。T細胞の多様性が高いのは、CMVにそれらを活性化させる力があるからではないか。

「CMVが最高の防御機能を発揮させるシグナルを出しているかのようだ」と、この研究の共同執筆者でアリゾナ大学加齢研究センター共同所長のヤンコ・ニコリッチズギッチは言う。「高齢でも優れた免疫反応を生み出す能力は存在し、CMVによって、言い換えればCMVに対する体の反応によって、その能力が発揮されることが分かった」と、スミシーは言う。

では、CMVに感染することは有益なのか。「人間をこのウイルスに感染させるつもりはない。むしろこのウイルスに反応する免疫ホルモンを特定したい」と、ニコリッチズギッチは言う。

「そのホルモンが、あらゆる感染症に対する免疫系の改善に役立つかどうかテストしたい。寿命を延ばし、健康を高めることにつながるかもしれない」

以上、カシュミラ・ガンダー
今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

TSMC株が6.7%急落、半導体市場の見通し引き下

ワールド

イスラエルがイラン攻撃と関係筋、イスファハン上空に

ビジネス

午後3時のドルは154円前半、中東リスクにらみ乱高

ビジネス

日産、24年3月期業績予想を下方修正 販売台数が見
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 10

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中