最新記事

医療

イスラム大巡礼を利用して紛争地の感染症データを収集せよ

Pilgrims’ Progress

2018年9月5日(水)17時00分
ジェス・クレイグ

090502.jpg

世界各地から大勢の巡礼者がメッカを目指して旅に出るが、道中で病気に感染する可能性も Yawar Nazir/GETTY IMAGES

2万5000人の医療関係者がサウジアラビア各地に配置され、病気になった巡礼者の世話をするかたわら、疫学的データを収集する。陸・空・海の玄関口に設けられた13の検問所で、衛生指導員、看護スタッフ、公衆衛生の専門家や医師が巡礼者の予防接種記録をチェックし、必要に応じて予防薬の投与やポリオワクチンの接種を行う。

ハッジ期間中はベテラン医師の監視チームが臨時の医療キャンプを巡回し、感染症の症状が出ている人間がいないか確認する。メッカとメディナの常設の病院に加え、臨時の病院と診療所も25カ所に設置される(病床数は合計5000床を超える)。

こうした取り組みにより、メミシュの試算では巡礼者の60%近くの疫学的データが集められ、指令センターに送られてリアルタイムで監視・分析される。集めたデータはWHOや世界の医療関係者に公開される。

こうした取り組みは貴重だ。人道的介入と国際的な健康安全保障を進展させると同時に、新たな病原菌について理解する手掛かりも提供し、感染症の世界的流行を防ぐのに役立つはずだ。ある国でどんな種類の病気が蔓延しているかを把握できれば、医療用の備蓄や治療をより正確に行えるようになる。

過去の研究では薬剤耐性菌の有無を調べ、感染パターンに関する極めて重要な情報が得られた。帰国した巡礼者については監視を続けられないため、旅の道中での感染の実態は不明だが、大勢の人間が集まって接触する場では巡礼者(特に免疫力の低下した者)の感染リスクは高まるとされる。

もっとも、病気が重く高齢で貧しい人々はハッジに参加しないので、調査で明らかになる疫学的パターンが必ずしも巡礼者の出身国全体の状況を反映しているとは限らない。それでもメミシュに言わせれば「アクセス困難な紛争国で何が起きているかを把握するには、ハッジは千載一遇のチャンスだ」。

[2018年9月 4日号掲載]

ニューズウィーク日本版 2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年10月7日号(9月30日発売)は「2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡」特集。投手復帰のシーズンも地区Vでプレーオフへ。アメリカが見た二刀流の復活劇

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国「国慶節」初日、鉄道利用が過去最高 消費押し上

ビジネス

シティ、イーサーの年末予想を引き上げ、ビットコイン

ビジネス

午後3時のドルは147円前半で下げ一服、再びレンジ

ビジネス

グーグル、ハッカー集団が幹部に恐喝メール送付と明ら
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」してしまったインコの動画にSNSは「爆笑の嵐」
  • 4
    なぜ腕には脂肪がつきやすい? 専門家が教える、引…
  • 5
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 6
    女性兵士、花魁、ふんどし男......中国映画「731」が…
  • 7
    「人類の起源」の定説が覆る大発見...100万年前の頭…
  • 8
    イスラエルのおぞましい野望「ガザ再編」は「1本の論…
  • 9
    アメリカの対中大豆輸出「ゼロ」の衝撃 ──トランプ一…
  • 10
    【クイズ】身長272cm...人類史上、最も身長の高かっ…
  • 1
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 2
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 3
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけではない...領空侵犯した意外な国とその目的は?
  • 4
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 5
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 6
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 7
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 8
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 9
    虫刺されに見える? 足首の「謎の灰色の傷」の中から…
  • 10
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 9
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中