最新記事

米外交

アラブ穏健派のリーダー、ヨルダン国王がトランプを変える?

2017年4月6日(木)19時10分
ロビー・グレイマー、エミリー・タムキン

トランプとアラブ世界の橋渡し役を期待されるアブドラ国王(右)とラニア王妃(右から2番目) Kevin Lamarque-REUTERS

<トランプが過激な中東政策を改めるきっかけになるのではないかと期待されていたヨルダン国王との会談後、トランプは殊勝な言葉を口にした>

ドナルド・トランプ米大統領は5日、ホワイトハウスでヨルダンのアブドラ国王と会談した。

この会談には大きな期待が掛かっていた。イスラム教徒の入国禁止を叫び、在イスラエル米大使館のエルサレム移転を公約に掲げるなど、選挙戦中からことさらアラブ諸国に敵対してきたトランプが、アラブ穏健派のリーダーとされるアブドラ国王と会うからだ。これをきっかけに、トランプのアラブに対する強硬姿勢も変わるのではないか、という期待だ。

イスラエル、イラク、シリアの間に打ち込まれた楔のような位置にあるヨルダンは、米政府とアラブ諸国を取り持つ同盟国として、欧米で広く認知され、紛争に揺れる中東で大国並みの政治的役割を果たしてきた。

「ヨルダンは中東で唯一安定した国で、唯一信頼できる国だ」と、独立系シンクタンク・新米国安全保障センター(ワシントン)の中東専門家イラン・ゴールデンバーグは言う。

【参考記事】ロイヤル・ヨルダン航空、米の電子機器禁止に神対応

トランプ政権下で中東情勢が悪化するという懸念は今も消えていない。トランプがムスリム差別発言を繰り返し、イスラエル寄りの政策をちらつかせ、イスラム教徒が多数を占める国からの入国禁止をごり押しするからだ。

【参考記事】トランプの「大使館移転」が新たな中東危機を呼ぶ?【展望・後編】

トランプの対外援助削減を警戒

こうした危うい中東政策を穏当な路線に導ける人物がいるとすれば、それはアブドラ以外にいない。「ヨルダン政府は穏健な政策を堅持すると共に、臆面もなく親米の姿勢をアピールすることで、米政界では非常に希有な地位を獲得してきた。民主・共和両党に支持されるという地位だ」と、元米国防総省高官で、現在はイスラエル寄りのシンクタンク・ワシントン中近東政策研究所に所属するデービッド・シェンカーは言う。

会談では多くの問題が話し合われた。シリアとイラクにおけるテロ組織ISIS(自称イスラム国)掃討作戦については、今後もあらゆる場で協議が重ねられるだろう。ISIS掃討もトランプの公約だ。

【参考記事】パイロットも殺害していた「イスラム国」の非道

会談後に行われた共同記者会見では、前日にシリア北西部で起きた化学兵器を使ったとみられる空爆に言及した。トランプはシリアのアサド政権が化学兵器を使用したと断じ、「(越えてはならない)一線を越えた。いくつも越えた」と非難した。オバマ政権の無策が惨事を招いたと言いつつも、今は自分が責任を負う立場だとも認めた。

【参考記事】シリアの子供たちは、何度化学兵器で殺されるのか

「昨日起きたことは私には容認できない」トランプはこう語ったが、アサド政権の後ろ盾であるロシアを非難することは避けた。一方アブドラはトランプがヨルダンの新たな難民受け入れに対して、財政的な援助を約束してくれたことに感謝し、今回の惨事で国際社会はシリア問題の解決が急務であることを改めて痛感したはずだと述べた。

【参考記事】知っておくべき難民の現実

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ICC、前フィリピン大統領の「麻薬戦争」事案からカ

ワールド

EUの「ドローンの壁」構想、欧州全域に拡大へ=関係

ビジネス

ロシアの石油輸出収入、9月も減少 無人機攻撃で処理

ワールド

イスラエル軍がガザで発砲、少なくとも6人死亡
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃をめぐる大論争に発展
  • 4
    車道を一人「さまよう男児」、発見した運転手の「勇…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 8
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 9
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 10
    1歳の息子の様子が「何かおかしい...」 母親が動画を…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 10
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中