最新記事

解説

知っておくべき難民の現実

例えば、シリア難民の多くは手段と機会さえあれば自活できる人々だということ

2015年9月24日(木)18時18分

前途多難 ギリシャの港に到着した客船内で上陸の瞬間を待つシリア難民 Michalis Karagiannis-REUTERS

 内戦が続くシリアから逃れた難民の声を聞くため、米シンクタンク「ランド研究所」の政策アナリスト、シェリー・カルバートソンは先日、シリア難民が多く暮らすレバノンを訪れた。難民向けの公共サービスの改善策を探るため、同じくシリア難民の受け入れ国であるヨルダンやトルコにも足を運んだ。

 深刻な人道危機へと拡大した問題に難民自身、そして国際社会はどう向き合っているか。カルバートソンが解説する。

■シリアの近隣国は難民をさらに受け入れることができるか

 レバノン、トルコ、ヨルダン、イラク、エジプトは既に大勢のシリア難民を受け入れており、その総数は約400万人に上る。

 今やレバノンでは国内居住者の25%が、ヨルダンでは10%がシリア人だ。限界を超える数の難民を保護している近隣国が、これ以上受け入れられるとは思えない。だからこそヨーロッパへ向かう難民が急増している。

■シリア難民の生活環境は?

 難民の8割以上が、主に都市部の公的に難民キャンプとして設置されたわけではない場所で暮らす。彼らの生活は厳しい。蓄えが底を突いたために子供を働かせたり、まだ少女の娘を結婚させたりする人もいる。そこまでしても、困窮から抜け出せるとは限らない。

 キャンプも設立されているが、すべての難民を収容できる規模ではない。私が話を聞いた難民の多くは、キャンプで暮らすことを望んでいなかった。ある難民の言葉を借りれば「人間が住める環境ではない」からだ。

■難民危機はシリアの子供にどんな影響を与えているか

 今のシリアの子供たちは「失われた世代」だ。まともな教育や適切な医療を受けることもできないまま、テントや地下室で子供時代を送っている。シリア難民の子供の約半数は学校へ通っていない。ヨルダンでは、難民の子供のうち10%が児童労働に従事させられている。

■人道活動への支援が増えれば、難民の生活環境は改善するか

 アメリカやEUなど従来の支援国も、目立った支援をしていない湾岸諸国も、援助を提供することが極めて重要だ。シリア難民支援には今年、計55億ドルが必要とされるが、現時点で集まっているのはその3分の1ほど。より多くの援助と資金源が必要だが、資源活用をめぐる新たな政策も不可欠だ。

 難民自身が人的資源としての潜在力を持っている。レバノン、ヨルダン、トルコで暮らす難民の大半は、失業率の高さや難民が職を奪うという懸念を理由に就労を許可されていない。しかし危機が長引く今、こうした方針は考え直すべきではないか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:日銀、柔軟な政策対応の局面 米関税の不確

ビジネス

米人員削減、4月は前月比62%減 新規採用は低迷=

ビジネス

GM、通期利益予想引き下げ 関税の影響最大50億ド

ビジネス

米、エアフォースワン暫定機の年内納入希望 L3ハリ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中