最新記事

米安全保障

「ロシアが禁止ミサイル配備」にも無抵抗、トランプ政権の体たらく

2017年2月15日(水)17時20分
ロビー・グレイマー

トランプが指名したフリン(写真)は辞めただけでなく、政権内に大混乱を残していった Carlos Barria-REUTERS

<トランプは、フリン国家安全保障担当補佐官を失っただけではない。管理能力ゼロと言われたフリンが政権内に残した高官内の分断や人手不足で、ロシアに威嚇されても応答もできない混乱を来している>

2月14日、ロシアが、開発したばかりの巡航ミサイルを実戦配備したと報じられた。マイケル・フリン国家安全保障担当補佐官を辞任に追い込んだスキャンダルにホワイトハウスが揺れるなかで起きたこの動きは、重要な軍縮条約に違反する可能性があり、ロシアとより良い関係を築くと公言していたトランプ政権にとって痛手となりそうだ。

今回のミサイル配備と、ホワイトハウスがそれに即座に反応できなかった事実は、新政権は人員不足のうえに難問山積で、安全保障上の脅威に対処する備えができていないことを示している。

【参考記事】CIAを敵に回せばトランプも危ない

政権発足から最初の数週間は、「人手不足で職務に集中できない状況にあるため、敵対国にとっては、新政権を試す絶好の機会になる」──ホワイトハウスと国防総省の幹部だったジュリー・スミスはフォーリン・ポリシー(FP)誌にそう語っている。だが、トランプ政権は「ひどい人手不足」状態にあり、フリン辞任後は「さらに落ち着きを失っている」とスミスは付け加えた。

実戦配備で現実の脅威に

ロシアが配備したのは、SSC-8と呼ばれる地上発射型の巡航ミサイルで、射程距離は500~5500kmだ。政府関係者によれば、このミサイルの配備は、1987年に締結された中距離核戦力(INF)全廃条約に違反するものだという。INF全廃条約では、中距離の射程を持つ地上発射型ミサイルと弾道ミサイルが全面的に禁止されている。ロシアはこれまでにも、たびたびこの条約に違反し、米国政府を苛立たせている。2014年には、このミサイルの発射実験も行った。

【参考記事】トランプの「迷言女王」コンウェイ、イバンカの服宣伝で叱られる

今回は単なる実験ではなく実戦配備したことで、「(当該ミサイルが)潜在的な脅威から現実の脅威に変わった」と、駐ロシア米国大使も務めたアレキサンダー・バーシュボウNATO事務次官はFP誌に語った。「問題はきわめて深刻化している」

このミサイルは核弾頭の搭載が可能で、核不拡散の取り組みに対する重大な脅威を象徴していると指摘するのは、軍備管理協会(ACA)のダリル・キンボール会長だ。「ロシアのこの行動は、米露の重要な軍縮条約に違反している。この軍事条約によってアメリカは冷戦を終結させ、欧州の同盟国に対する核の脅威を取り除いてきた」とキンボールは述べている。

【参考記事】サタデー・ナイト・ライブに「スパイサー報道官」が笑劇デビュー!

2月14日に第一報を報じたニューヨーク・タイムズ紙によれば、現在、ロシアの大隊2つがこの巡航ミサイルを保持しているという。そのうちの1大隊は、ロシア南東部カプスチンヤルのミサイル実験施設に配置されている。もうひとつの大隊については、ニューヨーク・タイムズ紙は配備場所を特定できていない。また、巡航ミサイルが実際に配備された時期についても明らかになっていない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中