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インタビュー

NY著名フレンチシェフが休業、日本に和食を学びに来る!

2016年6月17日(金)16時12分
小暮聡子(ニューヨーク支局)

――自分のレシピを盗まれた、とは思わないのですか。

 ノー。誰も盗んでなどいない。レシピを1つ差し出したら、翌週には新しい料理を考案すればいい。自分の手元で囲い続けていたら、新しいアイデアが出てくる余地がなくなってしまう。作ったら差し出して、常に新しいアイデアを探せるよう脳を空っぽにしておかないといけない。盗むのではなく、共有しているだけだ。互いに助け合い、互いの料理を褒め合う。誰かの料理に自分らしさを少し加えて、進化させていく。

【参考記事】1日だけ開店のポップアップレストラン、全米に増殖中

――逆に、自分の料理に和食の要素を取り入れると「フランス料理」でなくなるとは考えませんか。

 いいや。私は「クズ(葛)」など日本の食材を多く使っているが、「フュージョン料理」ではない。私はフュージョン料理を「コンフュージョン料理」(混乱している料理)と呼んでいる。

 例えば、ブーレイのメニューの1つに黒トリュフと鰹ダシ(出汁)をマリアージュさせた茶碗蒸しがある。茶碗蒸しはフランス料理では「フラン」といって、もともとはフランス人が日本人に教えたものだ。フランス人は、伝説的なシェフであるオーギュスト・エスコフィエ(1846~1935年)の時代からフランを作っていて、その少し硬めのフランを日本人が軽めにアレンジした。私が作る黒トリュフのフランは新しいわけではなく、単に(従来のフランと)食感が違うだけだ。

 今は、フランスのシェフの多くが昆布、味噌、柚子などを使っている。食べている側はそれらが日本のものだとは分からないし、日本の食材は健康的という利点もある。

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(左から)雲丹のキャビア乗せ、クズ製のクラッカーに黒トリュフを乗せたアミューズ、黒トリュフと鰹ダシをマリアージュさせたフラン(筆者撮影)

――和食に関心を持ったのはいつですか。

 90年代後半のことだ。一度ブーレイを閉じてタイ王国の王室シェフを務めていた際、辻さん(編集部注:辻調グループ代表の辻芳樹氏)が「東京に来てください、1週間料理を教えましょう」と誘ってきた。行ってみると、1日目は丸一日ダシ作り。2日目はまた別の種類のダシ作り......。とても面白いと思い、その3年後には日本から食材を取り寄せるようになった。クズ、西京味噌、昆布、数種類の醤油や餅などだ。

 和食ブームのおかげで今は当時の3倍の種類の食材が手に入るようになったが、クズやダシをフランス料理に取り入れたのは私が最初だ。現在はニューヨークにいるビジネス関係者が和食の素材に興味を持っていて、その対象はクズ、さまざまな種類の豆腐、湯葉、蕎麦、漬物など多岐に渡る。

――日本で好きなレストラン、トップ3を教えてください。

 まず絶対に、京都の「天ぷら 松」。息子が店を継いでいるが、彼はブーレイで数カ月働いていたことがある。次は京都の「吉兆 嵐山本店」で、伝統が息づき完成されている。銀座の「壬生」も好きだが、ここは会員制。他にもたくさんある。銀座の「寿司幸」や京都の「未在」も好きだし、大阪の「カハラ」も素晴らしい。

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