最新記事

中国

習主席、アフリカをつかむ――ジブチの軍事拠点は一帯一路の一環

2015年12月7日(月)17時08分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 アメリカもフランスも日本の自衛隊もまた、ジブチには軍事拠点に近い存在の施設を持っている。そこに中国も加わろうというだけで、これを「中国の軍事覇権」と批判することはできない。イエメン事件で外国人の救助を間一髪で成し遂げたのだから、その功績が評価されるのは当然のことだろう。
ただ、何が違うのか――?

 それはジブチが「一帯一路」の「海の新シルクロード」の中継地点であるということだ。 

 中国より西側の西半球全てを覆うような一帯一路の地図をご覧いただきたい。

 アデン湾から紅海へ、そしてスエズ運河を渡って地中海へとつなぐ「海の新シルクロード」。この重要な要塞の一つがジブチなのだ。

 600億ドルの拠出金もジブチも、一帯一路に込められた「中国の夢」と「中華民族の偉大なる復興」という政権スローガンの具現化の一つなのである。アフリカは政治的な不安定から経済発展が遅れているが、しかし石油の埋蔵をはじめ、コバルト・白金(世界の90%)や金(50%)、クロム(98%)、コルタン(70%)、ダイヤモンド(70%)など、資源大陸だ。ここは実は宝の山。一帯一路戦略で安全保障を兼ねながら、この大陸を「つかむ」習近平政権の戦略を見逃してはならない。

 たしかに日本も昨年から「日本アフリカ・ビジネスフォーラム」を開催し始め、アフリカのビジネスに乗り出してはいる。しかし「中国アフリカ協力フォーラム」は2006年から始まっており、さらには中国とアフリカの交流は1950年代から盛んに行なわれてきた。だから中国のあらゆる組織(大学や研究所あるいは行政省庁)に「アジア・アフリカ研究所」あるいは「アジア・アフリカ処」がある。このように中国とアフリカの関係は歴史が長く、一朝一夕で築いたものではない。

「習近平と安倍晋三」というアジアの二大巨頭は、さまざまな類似点を持っており、地球儀を俯瞰する外交でも常に競争しているが、中国の600億ドル拠出に対して、「それなら日本も」とばかりに「金額」で張り合うのはやめた方がいいだろう。日本国内の貧困問題や復興課題など、日本人の血税を注がなければならない優先課題は山積している。

 中国はインフラ投資をする一方で、現地の企業や現地人の雇用を必ずしも優先しておらず、投資によって中国企業が儲かる例が多く、投資先国の国民とトラブルを起こすことが多い。また人材育成に関しては後進国だ。

 まさに地球儀を俯瞰して中国情勢を正確に考察しながら、日本は量より質の政策で臨むべきだろう。

[執筆者]
遠藤 誉

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、次期5カ年計画で銅・アルミナの生産能力抑制へ

ワールド

ミャンマー、総選挙第3段階は来年1月25日 国営メ

ビジネス

中国、ハードテクノロジー投資のVCファンド設立=国

ワールド

金・銀が最高値、地政学リスクや米利下げ観測で プラ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 5
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 9
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 10
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 6
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 7
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中