最新記事

アフリカ

危険でもアフリカ目指す中国企業を待つ現実

資源争奪戦での「独り勝ち」を狙って危険地域にも大攻勢をかける中国だが、自国民と企業を守る体制は整っていない

2013年1月21日(月)14時49分
ミンシン・ペイ(米クレアモント・マッケンナ大学教授)

積極攻勢 スーダンなど欧米が二の足を踏むような国にも中国企業は進出している Reuters

 中国のアキレス腱があらわになった出来事だった。

 2012年1月末、スーダンで中国人労働者29人が反政府武装勢力に拉致された事件は、中国が世界に経済的影響力を拡大する上で直面する弱点をあらためて浮き彫りにした。

 世界の紛争地域で中国人が誘拐されたり襲われたりしたのは、これが初めてではない。5年前には、パキスタンで中国人技師3人が武装勢力に殺害された。1年前にリビアで内戦が始まったときは、中国政府が艦船と航空機を差し向けて3万人以上の中国人を救出したこともあった。

 スーダンで拉致された労働者は程なく解放されたが、同様の事件は今後も起きるだろう。このため中国は対外進出路線、とりわけ天然資源の確保戦略を見直すよう迫られている。

 中国政府が世界に経済的影響力を広げたいと考えるのは、不思議でない。中国経済は天然資源への依存度が高い。成長を続けるためには、エネルギーや鉱物資源を安定的に確保することが欠かせない。

 問題は、天然資源の相場が極めて不安定なことだ。しかも、採掘しやすい油田や鉱山の多くは、既に欧米系の資源・エネルギー大手に押さえられている。

 中国としては、不安定な天然資源相場と欧米系の多国籍企業に翻弄されずに天然資源を確保したい。国際市場や欧米系の多国籍企業を通さないで、戦略上重要な資源に直接アクセスできるよう、最大限の努力を払う必要がある──中国政府はかなり前からそんな結論に達していた。

欧米の兵力に「ただ乗り」

 こうした認識は政策にはっきり反映されている。中国はこの10年、天然資源の争奪戦でどの国よりも積極的な攻勢をかけてきた。国有企業は国内の金融機関から超低利の融資を受けて、資金力を武器に他国の企業との競争を制して資源開発権を取得してきた。

 政府の後押しの下、中国企業はスーダンやジンバブエ、コンゴ(旧ザイール)など、欧米の企業が二の足を踏むような国にも積極的に進出している。

 しかしその結果、中国は深刻なジレンマに直面し始めた。新興経済大国にのし上がったはいいが、自国の企業と国民を守るために、世界の隅々に兵力を投入できるような体制は整っていないのだ。

 大抵の場合は欧米諸国が安全を確保してくれているので、それに「ただ乗り」すればいい。例えば、アメリカ海軍が重要な海上輸送ルートをパトロールしているおかげで、中国船も安全に航行できる。中国が30億ドルを投じてアフガニスタンで開発している銅鉱山は、アメリカ陸軍に守られている。

 それでも常にただ乗りができるわけではない。あまりに危険が大きく、さすがのアメリカも自国の兵士を送り込もうとしない国もある。スーダンがそうだ。

 中国が資源確保を目指して、危険な国に単独で進出するのであれば、それ相応の兵力投入能力を築く以外に自国の権益を守る手だてはない。

 しかし、それには莫大な予算が掛かるし、近隣諸国や欧米諸国の不安をかき立ててしまう。いずれにせよ、必要な軍事力を整えるには時間がかかるので、当座の安全確保のニーズは満たせない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請1.8万件増の24.1万件、予想

ビジネス

米財務長官、FRBに利下げ求める

ビジネス

アングル:日銀、柔軟な政策対応の局面 米関税の不確

ビジネス

米人員削減、4月は前月比62%減 新規採用は低迷=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中