最新記事

アフリカ

ソマリアの惨状を世界が見捨てた訳

内戦激化で大量の難民が生まれ飢餓も慢性化しているが、米軍も国連も助けにこない

2009年11月25日(水)16時36分
ジェイソン・マクルーア

途絶えた支援  17年続いた内戦で飢餓人口は380万人に膨れ上がった Ismail Taxta-Reuters

 1992年当時のソマリアは最悪の状況だった。内戦で無政府状態が続き、武装集団が国連の援助物資を略奪。全土で180万人が飢えに苦しんでいた。

 そこへ登場するのが、米軍主導の多国籍軍だ。インド洋には援助物資を積んだ米軍の輸送艦隊が現れ、空からは米軍の攻撃ヘリが物資を運ぶトラックを援護。武装勢力の動きを監視するために米軍の偵察機が首都モガディシオ上空を日夜旋回した。

 それから17年。モガディシオは今も衛生状態の悪い難民キャンプに囲まれている。飢餓状態にある人は2倍以上に膨れ上がった。だがもはや、米軍も国連も救援に駆け付けてはくれない。

 ソマリアの危機は現在、最悪のレベルにまで深刻化している。暫定政府の軍とイスラム過激派の戦闘が各地で起き、この半年だけで140万人が国内避難民となった。

 それなのに、なぜ世界はソマリアに目を向けないのだろう。その答えは、国連と米軍の大規模な救援活動が頓挫した経緯にありそうだ。ソマリアと欧米の指導者たちが、混乱の収拾にことごとく失敗してきたことも無関係ではない。

 もちろん、この17年間に変化はあった。91年に独裁者のモハメド・シアド・バーレ大統領が追放され、内戦状態に突入。氏族の武装集団や軍閥が複雑に入り乱れて戦闘を繰り広げるなか、推定30万人の餓死者が出た。

 この惨状を見たジョージ・H・W・ブッシュ米大統領は退陣を間近に控えた92年末、国連安全保障理事会の決議に基づき、米軍主導の多国籍軍ソマリア統一機動軍(UNITAF)を派遣した。

ブラックホーク撃墜のトラウマ

 この支援活動は冷戦後、唯一の超大国となったアメリカが国連と協力して地域紛争を解決し、新世界秩序を打ち立てるというブッシュの構想の一環だった。

 今では忘れられているが、最初の数カ月間、支援活動は成果を挙げた。だが発足間もないクリントン政権は、厄介な軍閥モハメド・ファラ・アイディードの排除に動くという決定的な過ちを犯した。

 アイディードの副官2人を逮捕するために飛び立った米軍ヘリ、ブラックホーク2機が撃墜され、パイロット救出に向かった特殊部隊とアイディード派民兵が市街戦を展開。米兵18人が死亡し73人が負傷した。米兵の遺体がモガディシオ市中を引き回される映像がニュースで流れると、アメリカはソマリアからの撤退を決意する。

 98年、国際テロ組織アルカイダとつながりがあるとされるソマリアのイスラム過激派が、ケニアとタンザニアの米大使館を爆破。01年に9・11テロが起きると、米国防当局は再びソマリアに目を向けるようになった。 

 だがソマリアには石油はなく、アルカイダの大物幹部もいない。国際社会はこの国を混乱から救うより、周辺国への混乱の波及を防ぐことに知恵を絞るようになった。

 04年以降はイスラム過激派が勢力を拡大。CIA(米中央情報局)は軍閥の一派に武器を供与してイスラム過激派に対抗させようとしたがうまくいかず、人々はイスラム原理主義勢力「イスラム法廷会議」に傾倒していった。

 同会議が06年にモガディシオを制圧して一定の秩序が確立された。しかし、イスラム原理主義の波及を恐れる隣国エチオピアが米政府の後ろ盾を得て軍事介入。09年1月まで占領を続けた。その間に、さらに過激なイスラム武装組織アルシャバブが勢力を拡大した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

コロナワクチンで子ども10人死亡、米FDA高官が指

ビジネス

3大格付会社、英予算に一定の評価 高い執行リスクも

ビジネス

MSに人権リスク報告求める株主提案支持へ、ノルウェ

ビジネス

午前の日経平均は反落、846円安 植田総裁発言で1
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業界を様変わりさせたのは生成AIブームの大波
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    メーガン妃の写真が「ダイアナ妃のコスプレ」だと批判殺到...「悪意あるパクリ」か「言いがかり」か
  • 4
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 5
    「世界で最も平等な国」ノルウェーを支える「富裕税…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 8
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 9
    中国の「かんしゃく外交」に日本は屈するな──冷静に…
  • 10
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 5
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中