【密着ルポ】オープンAIのサム・アルトマンは、オッペンハイマーに匹敵する超人か? 密着して見えてきた、生成AI最前線に君臨する男の素顔と頭の中

THE REAL SAM ALTMAN

2024年2月2日(金)18時50分
エリザベス・ワイル(ニューヨーク・マガジン誌特集担当ライター)

アニーは番組を公開し、兄たち、特にサムにシェアしてほしいと頼んだ。サムは弟たちのキャリアに貢献していた(ジャックが創業したスタートアップ「ラティス」はYCの起業支援を受けた)。「『リンクをツイートするだけでいいの。そうしてくれたら助かる。自分が出演した妹のポッドキャストをシェアしたくないの?』って言った」。だが「ジャックとサムは、そういうことは自分たちのビジネスには合わないって」。

アニーはアキレス腱を負傷して薬局の仕事を辞めた。けがはなかなか治らず、サムと母親に金銭的援助を求めたが断られた。「ちょうど初めてパパ活サイトに出た頃。私は途方に暮れ、自暴自棄になり、混乱して悲しみに打ちのめされていた」

サムはずっとアニーの大好きな兄だった。寝るときにサムが本を読んでくれると、彼女は自分が理解され、愛されていると感じ、とても誇らしかったものだ。それなのに「なぜ私を助けてくれないの? 彼らには大して負担にならないのに」。

20年5月、彼女はハワイ島に転居。農場に居候して仕事を手伝うようになって間もなく、サムから父親の遺灰で作ったメモリアルダイヤモンドを送りたいから住所を教えてくれとメールが来た。「1つ5000ドルかけて、パパじゃなく自分の思い付きでそんなものを作って、それを私に送りたいだなんて。食費として300ドル送ってくれたらいいのに」

その後、サムとは疎遠に。サムから家を買ってやると言われたが、アニーは支配されたくない。彼女はこの3年間「現実とバーチャルの両方で」売春をして自活しているという。性的コンテンツの有料投稿が多い会員制SNS「オンリーファンズ」でポルノを公開。一方、インスタグラムストーリーズに相互扶助について投稿し、資金援助を必要とする人々と資金がある人々を結び付けようとしている。

サムとアニーは光と影だ。サムと交流のある人物によれば、彼は世界初のトリリオネア(1兆ドル長者)になると冗談を言ったらしい。盗んだデータとデイジーチェーン接続(数珠つなぎ)したGPU(グラフィック処理装置)を使って人間の知能を複製し超越するソフトウエアを構築しようと熱心に取り組んでいる。

「AIはきれいごとじゃない」

昨年6月22日、アルトマンはタキシードに身を包んで、パートナーのオリバー・マルヘリンとホワイトハウスの公式晩餐会に出席した。

彼は90年代のタイムトラベル映画の登場人物を思わせた。絶大な影響力の持ち主にしては小柄で若かった。それでも彼はおおむねうまくやっていた。アルトマンのCEO就任以来、オープンAIはNPOっぽさが薄れたばかりか、以前ほどオープンではなくなった。トレーニングデータとソースコードを公開して自社の技術の大半を誰でも分析・拡大できるようにしなくなった。「人類の最大利益のため」に働くのをやめたのだ。

試写会
『クィア/Queer』 ニューズウィーク日本版独占試写会 45名様ご招待
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

訂正-NY外為市場=ドル下落、アジア通貨に対し軒並

ビジネス

米フォード、通期予想を撤回 トランプ関税は15億ド

ワールド

教皇姿のAI画像は「冗談」、制作には関与せず=トラ

ビジネス

米ISM非製造業総合指数、4月51.6に上昇 投入
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗と思え...できる管理職は何と言われる?
  • 3
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どちらが高い地位」?...比較動画が話題に
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 6
    背を向け逃げる男性をホッキョクグマが猛追...北極圏…
  • 7
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 8
    恥ずかしい失敗...「とんでもない服の着方」で外出し…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 3
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1位はアメリカ、2位は意外にも
  • 4
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 5
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 6
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 7
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 10
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 6
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中