CIA元諜報員が「生成AIはスパイ組織の夢のツール」と明言する理由
MF3D/ISTOCK
<生成AIを駆使すれば、敵国の世論にひそかに影響を与え社会を揺さぶる宣伝工作が、驚くほど簡単で効果的にできる>
世界がますます混乱した、危険な場所になろうとしている。なにしろ真実を証明することが一層難しくなり、嘘がこれまで以上に多くの人を魅了しようとしているのだから。
政府が転覆し、社会が崩壊する可能性もある。なぜか。各国の情報機関も悪意あるアクターも、対話型AI(人工知能)「チャットGPT」のような大規模言語モデル(LLM)を利用したAIシステムを積極的に利用すると考えられるからだ。
新しい通信技術やソーシャルメディアを駆使した秘密工作は、既にこの10年間にウクライナやイギリス、スウェーデン、フランス、インド、香港、アメリカなどの世論を動かし、世界情勢に影響を与えてきた。
だが生成AIは、これまでになく細かな部分まで高度に調整された文章を作り出すことにより、特定の個人や集団の意見に影響を与え、政府や社会を揺さぶる能力を情報機関に与える。今のところそれを阻止できる個人や政府は見当たらない。
チャットGPTを開発した米オープンAI社のサム・アルトマンCEOは5月16日、米上院司法委員会で、「この技術がおかしなことになれば、壮大なレベルになり得る」と証言し、政府による規制が必要だと訴えた。
OECD(経済協力開発機構)やEUも最近、生成AIの脅威と将来性について専門家の意見を聞き、その利用法に関するガイドライン作りに乗り出した。
だが、国家間の競争が絡んでくると、問題は複雑になる。CIAのラクシュミ・ラーマンAI部長が、「われわれは間違いなく、最新技術を活用する必要がある」と語るように、敵対勢力に後れを取る(そして劣勢に立たされる)不安から、各国の情報機関は競ってこのパワフルな最新技術を使おうとするだろう。
米国防総省のロバート・スキナー国防情報システム局長官も最近、生成AIについて、「歴史的に見ても、極めて破壊的な技術」であるとし、「その能力と活用方法を敵よりも先に十分に理解するために、業界の助けが必要だ」と述べている。
一方、米国家情報長官室(DNI)は、毎年発表するグローバル脅威評価報告書で、初めてまるまる1章を割いて、「デジタル権威主義」(テクノロジーを利用した国家の監視・管理体制)の脅威を説いている。
情報機関の主な機能は2つある。情報収集と、CIAが秘密工作と呼ぶものだ(ソ連やロシアの情報機関は「積極措置」と呼ぶ)。米政府の定義では、秘密工作とは、外国の経済、軍事、政治情勢をひそかに変える活動のこと。ここで生成AIは最大の破壊力を発揮するだろう。
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