最新記事

コロナ特効薬を探せ

コロナ特効薬&ワクチン、米中日欧で進む研究開発の最前線を追う

THE RACE FOR ANSWERS

2020年5月22日(金)17時15分
アダム・ピョーレ(ジャーナリスト)

magSR200521_5.jpg

有効性が期待される抗マラリア薬のクロロキンを中国の製薬企業も製造 FEATURE CHINA-BARCROFT MEDIA/GETTY IMAGES

抗HIV薬のロピナビルとリトナビルの配合剤カレトラは、中国での臨床試験では効果が認められなかった。抗HIV薬の新型コロナウイルスへの効果はたまたま改善した症例があった程度で、今のところ確かな証拠はない。クロロキンは多量に投与すれば有毒な場合がある。

安全性と有効性が実証されれば、世界中の膨大な数の患者に薬が行き渡るよう大量に生産できる体制を整えなければならないが、それには何カ月もかかることがあると、世界開発センターのプラシャント・ヤダブ客員研究員は言う。

すぐにでも治療薬を必要とする患者が世界中にいるため、限られた供給量を適正に配分する方法を決めるべきだとの声も、公衆衛生当局者から上がっている。治療薬を迅速に供給するには、役割分担と責任の所在を明確化して手続きを簡素化する必要がある。そのためにはWHO、世界の保健施策に融資する機関、製薬会社のサプライチェーン担当者、各国政府の間で前例のないレベルでの調整を行わなければならない。

「この先行き不透明な状況で、各国政府と国際機関は迅速な決断ができるのか」とヤダブは言う。「発注した病院が全て十分な量を確保できるよう供給システムをどう運営するのか。限られた量をどう配分するか。公的機関の調整能力が問われる」

有効な治療薬ができれば死亡率を抑えられるが、長期的な制圧にはワクチンが決め手になる。ワクチンの開発には早くても1年半かかる。最も有望で開発が先行しているものは、ボストンに本拠を置くバイオテクノロジー企業モデルナが進めているmRNA1273だ。3月中旬に米大手医療団体カイザー・パーマネンテ傘下の研究所で安全性と最適な投与量を調べる試験が始まった。若い健康なボランティア45人に異なる量を投与する計画だ。

ほかにも有力候補としては、ペンシルベニア州に本拠を置くイノビオ・ファーマスーティカルズが開発中のワクチンINO-4800、イスラエルのミガル研究所が鳥の気管支炎ウイルス用に開発したワクチン、米バイオテクノロジー企業ヒート・バイオロジクスが開発した癌のワクチンなどがあり、いずれも新型コロナウイルスへの有効性を調べる試験が行われている。ジョンソン・エンド・ジョンソンやファイザー、GSKといった製薬大手も、ワクチン開発に乗り出している。

こうした動きやその他の試みの少なくとも一部が感染症の克服につながることは、ほぼ誰もが認める。ただ、それがいつ達成できるかは投じられる労力にもよるし、運にもよる。「大きな困難にもかかわらず、人類はペニシリンの大量生産に成功し、ポリオと天然痘を撲滅できた」と、感染症対策の権威であるベイラー医科大学(テキサス州)のピーター・ホッテズ教授は言う。「これほど悲惨な状況になるまで人々が気付かなかったのは残念だが、ようやく世界が協力して(このウイルスの制圧に)挑む体制になった」

<2020年5月26日号「コロナ特効薬を探せ」特集より>

【参考記事】政府はなぜ遅い? コロナ対策には起業家的アプローチが必要だ
【参考記事】アビガンも期待薄? コロナに本当に効く薬はあるのか

20200526issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年5月26日号(5月19日発売)は「コロナ特効薬を探せ」特集。世界で30万人の命を奪った新型コロナウイルス。この闘いを制する治療薬とワクチン開発の最前線をルポ。 PLUS レムデジビル、アビガン、カレトラ......コロナに効く既存薬は?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

「ガザは燃えている」、イスラエル軍が地上攻撃開始 

ビジネス

英雇用7カ月連続減、賃金伸び鈍化 失業率4.7%

ワールド

国連調査委、ガザのジェノサイド認定 イスラエル指導

ビジネス

25年全国基準地価は+1.5%、4年連続上昇 大都
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中