最新記事

コロナ特効薬を探せ

コロナ特効薬&ワクチン、米中日欧で進む研究開発の最前線を追う

THE RACE FOR ANSWERS

2020年5月22日(金)17時15分
アダム・ピョーレ(ジャーナリスト)

magSR200521_4.jpg

抗体を大量生産するため細胞を培養するリジェネロンの大型装置「バイオリアクタ―」 COURTESY OF REGENERON

中国やイタリアなど世界各地で治療の最前線に立つ医師たちは、ウイルスとの戦いに使えるものは何でも使うという姿勢で新たな治療法を探っている。今回のパンデミックは発生して日が浅く、こうした治療法に関するデータは十分には集まっていないが、効果を期待できるとする事例報告が上がっており、臨床試験に近いことも行われている。

最も効果が期待され、5月1日にFDAが新型コロナウイルス治療薬として緊急時の使用許可を出したのが、米製薬会社ギリアド・サイエンシズのエボラ出血熱治療薬レムデシビルだ。レムデシビルは、ウイルスが増殖するのに欠かせない酵素を阻害する。エボラウイルスに対する抗ウイルス活性効果が認められ、臨床試験で大きな副作用がないことも明らかになっている。

ヒト以外の霊長類を使った後続の研究では、レムデシビルがコロナウイルス、具体的にはMERS(中東呼吸器症候群)に効くことを示す結果が出ており、各国の衛生当局からは期待の声が上がっている。

レムデシビルの新型コロナウイルス感染者への臨床試験では、アメリカやヨーロッパ、中国など感染者が多い国で被験者を募り、1063人を対象に行われた。静脈内投与の効果を調べ、感染者の回復を早めることが確認されたという。

いわゆるプロテアーゼ(タンパク質分解酵素)阻害剤も新型コロナウイルス感染症の治療薬の候補に挙がっている。

これはエイズ危機のさなかに開発された抗ウイルス薬で、HIVが細胞内で増殖するために不可欠な役割を担うプロテアーゼに作用し、その働きを阻害する。それによりHIVの増殖を抑え、エイズの発症を防ぐ。その後、C型肝炎など他のウイルスに有効なプロテアーゼ阻害剤も開発された。

SARSなどのコロナウイルスも増殖にはプロテアーゼの一種を使う。だがコロナウイルスはHIVとはかなり異なるため、HIVに有効な薬が効くかどうかは不明で、引き続き研究が行われている。

抗マラリア薬のクロロキンと、それにヒドロキシ基が付いたヒドロキシクロロキンも、新型コロナウイルスへの有効性が期待されている。これらの薬は、ウイルスなど微生物が細胞内に取り込まれるプロセスである「エンドサイトーシス」を阻害する働きがある。この薬はエイズ禍の際にHIVの増殖を抑制できるか試され、その後に実験室で風邪やSARSなどのウイルスへの有効性が試され、ある程度の効果が認められた。

中国の公衆衛生当局は3月16日、北京、広東省、湖南省の10カ所の病院で100人超の患者にクロロキンを投与したところ、熱が下がった、CT検査で肺の影が減った、回復に要する期間が短縮されたなど有効性を示唆するケースがあったという。

治療の最前線で医師たちはさまざまな薬を試しており、今後も有望な治療薬の候補は増え続けるだろう。一例を挙げれば、中国当局は3月、日本の富士フイルム富山化学が開発したインフルエンザ治療薬「アビガン(一般名ファビピラビル)」が武漢と深圳の病院で行われた臨床試験で新型コロナウイルスへの有効性が認められたと発表した。

長期的にはワクチンが必須

ただし、有効性が認められた薬が実用化されるまでには多くの関門がある。まず大規模な臨床試験で効果と安全性が実証される必要があり、多くの新薬はこの段階でふるい落とされる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=下落、予想下回るGDPが圧迫

ビジネス

再送-〔ロイターネクスト〕米第1四半期GDPは上方

ワールド

中国の対ロ支援、西側諸国との関係閉ざす=NATO事

ビジネス

NY外為市場=ドル、対円以外で下落 第1四半期は低
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中