最新記事

対談

がん診断に欠かせない病理医とは? 病理学を知るとどんなメリットが?

2019年9月6日(金)11時20分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

仲野 僕はもう20年くらい顕微鏡をのぞいてないなぁ。もちろん研究では必要やから、顕微鏡で撮った写真を見ることはあっても、自分でのぞくことはない。だから、もう使い方も忘れたな......。もっときれいな写真を撮って、とか指示するだけです。でも、画面のほうが大きく見えるしきれいじゃないですか?

小倉 顕微鏡もきれいですよ。

仲野 でも、姿勢も悪くなるでしょ。病理医の先生って暗い感じの人が多いのは、顕微鏡をのぞき込む、ちょっと前屈みの姿勢のせいちゃうかなーと思っているんやけど(笑)。こんなこと言ったら怒られるかな。

小倉 いえ、分かります。猫背で顕微鏡にかじりついている姿はネクラっぽいですから(笑)。

がん細胞に顔つきや振る舞いがある!?

小倉 私も顕微鏡をのぞきながら、細胞に向かって話しかけちゃうんですよ。がんの顔つきと振る舞いは、パラレルなことが多くて、変なかたちのがん細胞を観察すると、「あらぁ、こんなに悪くなっちゃって」とか、思いがけないところに転移しているがん細胞をみると「なんで、こんなところまで運ばれちゃったの」とか、ついつい細胞に向かって話しかけてしまいます。珍しい病変だと「初めて見た~!」とワクワクします。有名人に遭遇した感じですかね。

先生は研究していて、どういうときに気分が盛り上がったりしますか?

仲野 そういうのはね、大体10年に1回くらいしかありませんわ。

小倉 えぇ~!(遠い目)。つらいなぁ......。日々の楽しさはあるのでしょうか?

仲野 日々の楽しさはないなぁ。普通に研究していて、毎日毎日、喜びを感じているような奴は大成しない、というのが僕の意見なんですわ。そういう小さいことで喜びを感じているような奴は、日々の労働自体が目的になってしまうからアカンのよ。もっと大きいものを目指して、5年、10年と我慢するのが研究者というもの。

小倉 すごいストイックですね。じゃあ、10年に一度の喜びたるや、すごいでしょうね。

仲野 そう。でも、それが来ないこともある。まぁ、研究っちゅうのははそんなもんですわ。

小倉 ダメだ、私......研究者にはなれない。病理診断は「診療」という業務ですから。そういう意味で、私はルーチン作業が好きなんだと思います。

cancerbook190906talk-3.jpg

小倉加奈子/順天堂大学医学部附属練馬病院 病理診断科先任准教授、臨床検査科長。2002年順天堂大学医学部卒業。2006年同大学院博士課程修了。医学博士、病理専門医、臨床検査専門医。外科病理診断全般を担当し、研修医・医学生の指導にあたる。趣味は、クラシックバレエと読書。二児の母 Newsweek Japan

AIが病理医を凌駕する時代がやってくる?

仲野 ただ、毎日たくさん診断していると、どうしても難しいこともあるでしょ。これはわ分からんなぁ、とか。今はまだ、たくさんの症例を見てきた経験値の高い人、つまり年齢が上の人の意見のほうが通りやすいんだろうと思うけど、今後、画像診断の蓄積が進んできて、AIが導入されれば、経験値の優位性はなくなってくるかもしれませんよね。

小倉 そうなっていくんだろうとは思います。AIに限らず、ゲノム医療の研究が急速に進んでいて、私たち病理医が現在行っている「形態診断」(病変の見た目で診断する)と合わせて、遺伝子診断も行われるようになってきており、病理医の仕事もどんどん変わっていくと思います。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トルコ、ロ・ウにエネインフラの安全確保要請 黒海で

ワールド

マクロン氏、中国主席と会談 地政学・貿易・環境で協

ワールド

トルコ、ロシア産ガス契約を1年延長 対米投資も検討

ワールド

米国がAUKUS審査結果提示、豪国防相「米は全面的
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 3
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 9
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中