最新記事

対談

がん診断に欠かせない病理医とは? 病理学を知るとどんなメリットが?

2019年9月6日(金)11時20分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

PeopleImages-iStock.

<分かりやすい病理学の本がベストセラーになった仲野徹氏と、「病理学とがん」の分かりやすい本を出版した小倉加奈子氏が対談。病理医と病理学者、AIと診断、がん細胞......知られざる病理学の世界へ>

内科から外科、皮膚科、産婦人科、整形外科まで、診療科にはさまざまな種類がある。一度も病院のお世話になったことがない、という人はごくわずかだろう。日本人の平均寿命は男性が81.25歳、女性は87.32歳(2018年)。長い人生の中で、誰もが多くの医師と関わっていく。

では「病理医」はどうだろう? 病理医のお世話になったことがある(という自覚のある)人はどれだけいるだろうか。

重要な役割を担っているのに、患者からは最も見えない存在だと言えるかもしれない。病理医と聞いて、ピンとこない人のほうが多いのではないか。とりわけ、日本人の死因1位であるがんの診断には欠かせない存在なのに――。

2017年、病理学者の仲野徹氏による『こわいもの知らずの病理学講義』(晶文社)がベストセラーになった。その前年には、病理医が主人公として描かれた医療ドラマ『フラジャイル』(主演はTOKIOの長瀬智也)が放映された。それでも、病理学はまだまだ市民権を得たとは言えない。

病理学とは何なのか。病理医や病理学者は、一体どんな仕事をしているのか。
cancerbook190906talk-cover200.jpg
大阪大学で病理学の教授を務め、読書家で書評サイト「HONZ」メンバーとしても知られる仲野氏と、順天堂大学病院で病理医として勤務し、このたび『おしゃべりながんの図鑑――病理学から見たわかりやすいがんの話』(CCCメディアハウス)を上梓した小倉加奈子氏が、「病理学者と病理医の仕事」「AIと病理学」「病理学を知るメリット」について語り合った。

◇ ◇ ◇

病理学者と病理医は、まったく異なる仕事だった!

仲野 病理学っていうのは、一般の人はあんまり知らないと思いますけど、簡単に言えば、病気の本態を理解し、病気の診断を確定する、医学にとってすごく重要な学問なんです。ただ、私も研究者ですから患者さんとの関わりという点は、実は全然知らないんですよね。病院の案内板なんかには、一応「病理科」ってあるんでしたっけ?

小倉 はい。病院に病理医がいれば診療科のひとつとして掲載されていることが多いです。ただ、患者さんを直接診る科ではないので、病院の中で病理医がどれくらいの存在感があるかによるかも......(笑)。

仲野 なるほど。病院の病理医は、病気にかかっている部分の組織を検査して、本当に病変があるかどうかを確認するわけですよね。それで、「これは○○がんです」といった診断を下す(病理診断)。がんの場合、この確定診断は絶対に病理医が行うわけですけど、それ以外だと、どういう病気があるんですか?

小倉 がんに限らず、頭のてっぺんから足の先まで何でもみます。難病指定されている好酸球性副鼻腔炎とか潰瘍性大腸炎などは病理診断が難病の医療費助成のために必要だったりします。また、皮膚科の病理検体は、ホクロなんかの組織を取りやすいこともあって、よく回ってきますね。

cancerbook190906talk-2.jpg

仲野徹/1957年、「主婦の店ダイエー」と同じ年に同じ街(大阪市旭区千林)に生まれる。大阪大学医学部医学科卒業後、内科医から研究の道へ。ドイツ留学、京都大学医学部講師、大阪大学・微生物病研究所教授を経て、大阪大学大学院・医学系研究科・病理学の教授に。専門は「いろんな細胞がどうやってできてくるのだろうか」学 Newsweek Japan

仲野 今でも、プレパラートにガラススライド標本を挟んで、それを顕微鏡でのぞいているんですか? それとも、液晶の画面を見ながら?

小倉 いえいえ、大体が標本です。というのも、やっぱり顕微鏡で見たくなっちゃうんですよ、病理医って。それは若い人でも同じで、みんな顕微鏡好き(笑)。やっぱり顕微鏡をのぞいて手を動かすと安心感があるというか、顕微鏡と身体が一体になっている感じなんですよね。先生はのぞかないですか?

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米中、TikTok巡り枠組み合意 首脳が19日の電

ワールド

米国務長官、カタールに支援継続呼びかけ イスラエル

ビジネス

NY州製造業業況指数、9月は-8.7に悪化 6月以

ビジネス

米国株式市場・午前=S&P・ナスダックが日中最高値
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 7
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中