最新記事
BOOKS

【大河「べらぼう」5分解説③】戯作で蔦重を支えた朋誠堂喜三二の「黄表紙」の世界

2025年4月29日(火)11時40分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部



喜三二が活躍した黄表紙の世界

子供向けの絵入り本であった草双紙は、次第に恋愛や遊郭、滑稽などを主題とした大人向けのものへと変わっていき、表紙の色から赤本や青本、黒本と呼ばれるようになった(詳しくは:大河ドラマ『べらぼう』が10倍面白くなる基礎知識! 江戸の出版の仕組みと書物の人気ジャンル)。

恋川春町が鱗形屋から刊行した『金々先生栄花夢』を皮切りに、表紙の色から「黄表紙」と呼ばれる草双紙が人気を博した。

黄表紙は毎年、新春に新版を刊行する慣わしとなっており、新年の縁起物という意味合いも強かった。

安永末から天明4年前後にかけて、黄表紙の刊行点数は爆発的に増えていく。ここでも、鱗形屋の衰退により、取って代わって黄表紙の市場に参入したのが蔦重であった。鱗形屋で活躍した朋誠堂喜三二や恋川春町らを起用し、多くの作品を世に送り出した。

newsweekjp20250423102703-8da1b15fade38dc5a5927bc94cb2b56d40998abd.jpg

『金々先生栄花夢(きんきんせんせいえいがのゆめ)』恋川春町作・画 1775(安永4)年正月 国文学研究資料館蔵
黄表紙の元祖となる本作は、江戸に出てきた金村屋金兵衛の遊興の有様を、従来の赤本や黒本のように幼童向けではなく、より大人向けの知的な描写で描いたもの。
出典: 国書データベース、https://doi.org/10.20730/200015145

newsweekjp20250423102306-dccee2163fda88b208ed4e2817fdfcfe36c05c2e.jpg

『廓花扇観世水(くるわのはなおうぎかんぜみず)』朋誠堂喜三二作・北尾政演画 1780(安永9)年 国立国会図書館蔵
安永9年には、凋落しつつある鱗形屋に取って代わるようにして、蔦重は一挙に15種もの出版物を刊行した。本作は同年に出され、蔦重が初めて手がけた黄表紙のひとつ。鱗形屋で活躍した朋誠堂喜三二が戯作を、北尾重政の弟子で、山東京伝の名で戯作者としても活躍する北尾政演(まさのぶ)が挿絵を担当している。

newsweekjp20250423102553-86d31db7d395ec83b6fefe71125d5b888bb32856.jpg

『恒例形間違曽我(いつものかたまちがいそが)』朋誠堂喜三二作 1782(天明2)年正月 国立国会図書館蔵
『曽我物語』の世界に『忠臣蔵』など別の物語を混ぜ合わせた黄表紙。最後の場面には、作者の喜三二が登場して、本作品を版元の蔦重に渡しているところが描かれる。

newsweekjp20250423102824-223092298df85bc38010a1e57c200b081fb9d808.jpg

『亀山人家妖(きさんじんいえのばけもの)』朋誠堂喜三二作(北尾重政画か) 1787(天明7)年正月 国立国会図書館蔵
画工の署名はないが、北尾重政に結び付けられる黄表紙。朋誠堂喜三二と北尾重政は、蔦屋重三郎の版元から刊行された初期黄表紙作品を支えた人物である。巻頭に喜三二と蔦重が登場して、新版目録を紹介する。

newsweekjp20241001115047-ee86b8473e023f94c5bb356eb9d63c033a7c24e8.jpg
Pen BOOKS 蔦屋重三郎とその時代。
 ペン編集部[編]
 CEメディアハウス[刊]

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

newsweekjp20241001110840-52d8ba4d464f051b147f072154166ed910f7d37d.jpg

newsweekjp20241001110900-d17961cf9be794dc02a88e04cb4a7558dd610fb8.jpg

ニューズウィーク日本版 コメ高騰の真犯人
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年6月24日号(6月17日発売)は「コメ高騰の真犯人」特集。なぜコメの価格は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル・イラン衝突、交渉での解決が長期的に最善

ビジネス

バーゼル銀行監督委、銀行の気候変動リスク開示義務付

ワールド

訂正-韓国大統領、日米首脳らと会談へ G7サミット

ワールド

トランプ氏、不法滞在者の送還拡大に言及 「全リソー
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中